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第125話

 陽斗は高梨の背広を掴み、全力で揺さぶった。そうして、彼の頬を強くひっぱたいた。  すると高梨が、ハッと瞬きをする。 「――陽斗君」 「高梨さんっ」  必死の形相で見あげると、高梨も焦点の戻った瞳で、陽斗を見てきた。 「――ああ、いけない。わかった、ごめん、外に出る」  正気になった高梨に、陽斗もホッとする。 「この家には遮香室はある?」 「ない。じゃあ君は、光斗君を連れて、二階の自室に籠もってるんだ。僕は正門を施錠して、誰も屋敷に入れないようにしておく。それから念のため警備会社にも連絡しておこう」 「わかりました。それから、高梨さん、アルファ用の抑制剤は持ってます?」 「ああ、持ってる。飲んでおこう」 「けど効かないかもしれない。光斗のフェロモンは特別強いんだ」 「わかった」  高梨が玄関扉に手をかけようとしたそのとき、なぜか外側から扉があいた。ドアの隙間から、ヌッと見知らぬ男が顔をのぞかす。 「社長。どうしたんですか。この匂いは。私も、中に入れていただけませんか」  黒い背広姿の中年男性が、不気味な低い声で笑いかけてくる。 「お前は外に出てるんだっ」  高梨は男を押し戻すと、ドアをしめた。 「僕のボディガードだ。今日は鷺沼がいないからあいつに運転手をさせていた」 「あの人、アルファなんですか」 「そうだ、クソッ」  玄関扉がドンドンと叩かれる。

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