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案件1:本部改修計画
「はぁーっ…!疲れた、荷物重っ、国際旅行しんど」
数泊分の荷物とお土産を引き摺り、萱島はレンタカーを降りて社のエントランスへ凭れ掛かる。
相も変わらず辛気臭いRIC本部は、数年前よりセキュリティだけ分厚くなって帰還者を待ち構えていた。
「今週だけでMP使い切った感が凄い…有給を…駄目だ、牧くんにザオリクを」
「沙南、荷物持つぞ」
「君は帰り道からやたらと俺の荷物を持ちたがるね、良いよもう着いたし面倒臭いし」
「沙南、荷物」
駐車を終え、背後から追い掛けて来る戸和くんを往なす。
それで何処ぞに仕舞い込んだ社員証を探っていると、目前の頑丈なゲートが独りでにすうと口を開いてくれた。
「お疲れ様です、支部長」
殊勝な社員が中から迎えに来てくれたらしい。自分たちも忙しいだろうに。
嬉しいやら申し訳ないやらで曖昧な笑顔を向ける萱島を他所に、殊勝な迎え…佐瀬くんは何やらその上司らの背後を覗き込んでいた。
「社長は?」
「ん?未だ用事あるって言ってたから」
「良いですね、実は俺たち今祭りを催してるんですけど」
「仕事は?」
やっと社員証を発掘した萱島が真顔で問う。佐瀬は頷いた後、懐から己のスケジュール帳を取り出して開いてみせた。
「貴方たちが仕事を放り出して会社を出たのが此処、俺たちが受注分の仕事を終わらせたのが此処」
「成る程ね!戸和くん一緒に土下座しようか」
「貴方たちの有給消化日と同日数を申請しようと思いましたが、それでは温いと牧主任が異議を唱え」
「可笑しいな、牧くんは出発時は味方だった筈なんだけど」
「この機に職場の不満点を洗い出して、改善案を出そうという流れになったんです」
ああ、真っ当。
海外支店に飛ばされたと言いつつ、実のところ難を逃れただけの萱島は、本部の激務を思って一人頷く。
おまけに直近の騒動で責任者が軒並み長期旅行に出かけたお陰で、現在の本部職員の負担は増して倍プッシュされた煉獄だった。
「改善案なら度々出してただろ」
「ああ戸和、お前なら分かるだろうが、雇用主の人間性とかソフト面に関わる部分はもう諦めた」
「つまりハード面に関する改善案を?」
「フッ…そうだ、此処はもう直俺達の理想の城になる!既に工事も発注済みだしな!」
「早っ!」
流石弊社の優秀な行動力の塊!
え、許可は?許可は?等と無粋な事を聞くのも憚られ、萱島は自分の立場も忘れて妙に浮足立ち始めた。
「じゃあ何、今中は工事してるわけ!?」
「ええ一部は進めてます、その他は未だ会議中で、特に今食堂をどうするかで揉めてて」
「え、ちょっと待ってうち食堂出来んの?」
「出来ますけど?」
どやあっ!最早責任者の許可など知った事でない。我々の会社だと言わんばかりの顔をした佐瀬(D班班長)の面構えに、圧倒された萱島支部長が劇画調になる。
そんな両者のやり取りを前に、ここ数日で若干IQが下がった気がする戸和くんが、しかし相変わらずの良心として責任者の肩へ手を掛けていた。
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