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案件1-2

「沙南、取り敢えずメインルームに行こう。牧と話した方が良い」 「確かに…食堂を作るなら誰に相談すべきか分かっとらんらしいな」 「違う雄山みたいな顔をするな、煮詰まって変な方向に走ってたら困るだろ」 かくして、萱島は戸和くん、既にNEW本部帝国の幹部面をしている佐瀬くんを伴い、弊社の無駄に長い廊下を走ってメインルームへ急いだ。 急いでいる内に思った。確かに何で弊社の廊下はこんなに長いんだ。暗いし陰気だし、メタルギアの任務遂行しているみたいな気分になってくるし、何より中年に優しくない。 「ハア…ハア、未だ休憩所か…設計段階でミスって無理やり通路繋げたみたいな間取りだ」 「安心して下さい支部長、この本部には問題が多過ぎた…それを俺たちの手で変えてやりましょう!俺達でこの世界の未来を創りましょう…!」 佐瀬くんが新興宗教みたいな事を言いながら手を差し伸べてくる。 萱島を他所に、諸々の事件で思考中枢がすっかりやられ、人畜無害の権化みたいになってしまった戸和くんが大きく頷いている。 追い詰められた萱島はよろよろと立ち上がり、頭を上げた。 視界では最後のゲートが開き、管制室を思わせる巨大な空間と列を為したモニターが端々まで広がる。 牧主任は中央に居た。プロジェクター手前のデスクに陣取り、他の班長らと顔を突き合わせて何やら話し込んでいた。 成る程あそこが会議室かつ事件現場らしい。 意を決してその輪へ近寄れば、勢いよく机を叩いた間宮くん(現・副主任)が前傾姿勢で彼の主張を述べていた。 「だから俺はディズニーランドみたいにしようって!」 「思ってた斜め上の方向で喧嘩してるけど!」 「徹夜ハイも相まってマトモな思考の奴が居ないんだろうな」 冷静に戸和くんが眉を寄せたが、誰も強く制す者は居ない。腕を組んで考え込んでいた牧主任ですら「うん、その意見は分かる」と神妙な顔で一端の理解を示しつつ、傍らのホワイトボードへ何やら書き足していた。 「何あのホワイトボード?なんて書いてあんの?右端に”熱川バナナワニ園”って書いてあるけど何?」 「バナナとパイナップルが食べ放題だったら良いなって…」 「君の案なのか佐瀬くん」 最早現場は食堂をどうするかとか、そういうレベルでもないらしい。 立ち入る前は未だ「微笑ましいな~」と悠長に構えていた萱島も、会議のエンジョイ全振りな熱量を見て変な汗を掻き始めていた。 「君たち、ちょっと…会社に青春を求めすぎてない?」 「萱島さん!帰って来てたんですか!実は大体の計画というか、設計図は出来たんですが間宮がディズニーを譲らなくて」 牧くんが切羽詰まった顔で振り返り、此方へ何やら手元の方眼紙を押し付けてくる。 やあ牧くん、コンビニでは腐ってた自分をあんなに格好良く叱ってくれて有難う、お陰で迷いも経ち切れたし、戸和くんを救うことが出来たよ。等という感謝を伝える隙もなく、苦い顔で方眼紙を広げた萱島は思い切り唇を噛んだ。 「…ぐぅ」 「取り敢えず皆の夢と希望を詰め込んでみたんですけど、どう思います?費用計算は未だです」 「小学生が考えた最強の秘密基地みたいになってる…」 「先ず現実問題として、施工可能なのか?特にこのトイレの横のバナナワニ園」 海外支店二人の指摘を受け、最近はめっきりスーツがデフォになった牧くんが首を傾げる。その手元には大量のエナドリが転がっており、良く見ればお隣の間宮班長は頭にネクタイを巻いていた。

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