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案件2-3
「違うよ佐瀬くん、完全週休二日制って言うんだよ」
「うおお、何か良く分かんないすけど、寒ブリを炙ったら更に美味くなるみたいな話ですか?」
「違うけど…本郷さん勘弁してよ、今戸和くんコンビニ行ってるんだからSAN値が足りなくなるじゃない」
「俺そんな正気失くすような事言ってんの?」
心外だわ、みたいな顔したイケメンが間宮くんから奪ったミックスナッツを貪っている。
中東の一件が片付いてから、どうやら萱島の味方は減ったようだ。コンビニに行った戸和くんも皆の全肯定botみたいになってしまったし、牧主任は遂にオーバーヒートして仮眠室に運び出されたし。
「いや何て言うかさ、俺はパトリシアちゃんがこの会社に改革を齎してくれるんじゃないかと期待してんのよ」
間宮くんが「要らない」と余らせたジャイアントコーンを咀嚼しつつ、副社長が尤もらしく腕を組む。
「あの年頃の女の子に色々言われたら妥協するしかないだろ?パトリシアちゃんには是非健全な精神で、弊社の雇用主に問題点を指摘して欲しいわけ」
「な、なるほど~」
「それは確かに社長の身内にしか出来ない仕事だね」
「いいっすね。まあそれはそれとして、個人間の恋愛は自由ですけどね」
せっかく良い感じに話がまとまったのに、間宮くんが蒸し返してしまいました~、グリフィンドール マイナス50点!
残飯処理を終えた本郷さんも、え?みたいな顔で自称プレイボーイを凝視している。
「間宮…未成年どころかJKに手出そうとしてんのか」
「10歳差なんて誤差ですよ、女性は16歳で結婚出来るんです」
「お前勘弁しろよ!俺の娘と同い年だぞ!」
「いやそれは貴方の方が特殊な例でしょ!そもそも結婚する前に産ん」
「わーーーー!!!!」
間宮くんが極大の地雷を踏み抜きそうになった所で叫び、何か気を逸らすものは無いかと右往左往する。
萱島の想いが通じたのか出入り口のゲートが開き、コンビニから用事を終えて帰還した戸和くんがビニール袋を手に立っていた。
「ナイスタイミングだ戸和くん!何でも良いからこの場を収拾してくれ!」
「収拾?良く分からんが、頼まれたものは買って来たぞ」
「有り難う!収入印紙と、ガムテと、牧くんにあげるリポビタンDと…ちょっと待って、何で君メンズナックル買って来たの?」
「表紙に知り合いが載ってたから」
「”過去の殿堂入りスナップ特集”…これ間宮だ…歌舞伎町のホスクラで働いてた時代の間宮くんだ…」
「何それ見たい見たい!全体ラインで拡散しようぜ!」
「やめろ!!!!!」
戸和くんがサプライズ購入したメンナクに群がる社員、結構本気で制止の声を上げる間宮サブチーフは無視され、今月号の特集ページを開いた佐瀬くんが呼吸困難に陥ってビチビチしている。
収拾ついてるか?ついてんのかこれ?と迷ったが、全盛期を誇った間宮くんの髪型が面白過ぎたので野暮な発言は引っ込めた。
「”俺というスーパーノヴァ(超新星)の齎す光で、歌舞伎町の夜は未だ終わらない”」
「煽り文を読むな!!俺が書いたんじゃねえ!!」
暴れる当人を他所に、部下が雑誌の表紙を飾った副社長はちょっと嬉しそうだった。
それから後日やって来たパトリシアちゃんに誌面を見せたところ、「撮影前に爆発に巻き込まれたの?」と怪訝な顔で盛りヘアーを詰られたので、萱島は悪い事したなあとその時ばかりは反省したのだった。
おわる
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