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案件2-2
「未だ本採用も決まってないし、暫く不便になるのは致し方ないかもな。住居はどうするんですか?社宅?」
「え?社長の家だけど?」
「え…?」
ざわ、ざわ…。賭博漫画の様な擬音が流れているが、これは必然。致し方ないざわめき。
しかし萱島分からない、部下が閉口する理由、彼らの懸念事項。故に試みる、部下との対話。
「すみません、どうされました?」
「いや、社長の家って事は…本郷さんも暫くは帰ってきますよね?ひとつ屋根の下に初心な田舎女子と百戦錬磨のアサシンはちょっと」
「何の話?」
「うっぎゃっひゃぁ」
突然当人に話し掛けられた佐瀬くんが前転した。
メインルームに現れた副社長は周囲を見回し、今日も揃って談話している社員に仲良しだなあ、みたいな顔で和んでいたが、萱島は場を代表して彼を引き留め、丁度今し方議題に上がっていた件を質問する。
「本郷さん、パトリシアちゃんの事なんですが」
「はい」
「暫くは社長の家に住むんですか?本郷さんと一緒に?」
「うん、ああ……何、俺に出てけとかそういう話?」
否、流石に出てけまでは言ってない。そもそも貴方の家だし、家賃も社長と折半だろうし。
まあ、いや…と頷きかねている萱島を他所に、当人は納得した面で代替案を決めてしまった。
「じゃあ日本に居る間は社宅借りるか、会社近いし」
「そんな事したら『どうせ直ぐ帰れる』って永久に会社に住むパターンでしょ」
「俺のこと滅茶苦茶分かってんな間宮、結婚しようぜ」
するぅ!と裏声出して飛び付いている間宮くんはどうでも良いが、確かに副社長の社宅住まいは可能な限り回避したい。
寧ろ兄妹が一緒に住みたい風にも見えなかったし、彼女が社宅に住めば解決するのではなかろうか。
「別にそれは良いんだけどさ、俺こないだの出向先で凄い社内制度を体験したんだわ」
珍しく副社長が話を脱線させてきた。彼の話は出来得る限り尊重したい萱島だが、何だか話の矛先に低レベルの気配を感じる。
「え?どんなですか副社長」
「その会社はさ、週に2日も休みがあるわけ」
「俺知ってますよ!週休二日制ですよね!?でもそんなの職安の捏造じゃないんですか?見た事ないですよ」
いやあるよ。ごまんとあるさ。
特殊な業界育ちの萱島ですらドン引きしたが、ほぼ学生の齢に引き抜かれた可哀想な青年らはきゃっきゃと盛り上がっている。
そもそもこの会社週に1日の休日すら無いんだけど、本郷さん労働基準法って知ってる?
存外に根っこの部分が少年だから、どうせ例の会社での日々はバカンスと捉えてはしゃぎ散らかしていたのだろうが。
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