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30、二度目の……
「っ……おっきぃ……きついよね……?」
「ちょっとね。……でも」
累は眉根を寄せ、空の腰を支える右手に力をこめた。そしてさらにぐぐ……と腰を進めて、「っ……ハァ……」と途方もなく色っぽいため息を漏らしている。くびれた雁首 をかろうじて受け入れることができたようだが、その分空の後孔への圧迫感もすごい。空は「んっ、ん……」と唇を引き結び、ぎゅっと累の首に腕ですがった。
「っ……すごい、はいってるの……?」
「うん……挿入ってる。……苦しい?」
「ちょっと、くるしいけどっ……でも、へいきだから……っ」
快感とは程遠い異物感だが、汗でしっとりと濡れた肌と肌を触れ合わせながらキスをしていると、いいようのない愛おしさのようなものが込み上げてくる。
累はずっとずっと、空とこうすることを望んでいたのだ。だけど、空の心の準備が整うのを待っていてくれた。ようやく想いを遂げようとしている累の肌は、空のものよりもずっと熱い。そして、空を切なげに見つめる青い瞳に浮かぶ劣情に、空もまた身体の奥から感じさせられて――
「っ……ぁ、っ……は」
ゆっくり、ゆっくりと拓かれてゆく内壁の奥深くから、湧き上がる新たな感覚。空は目を閉じ胸を上下させながら、ぞくぞくと這い上がってくるような甘い痺れに声を震わせた。
「るい……っ」
「わかる……ぜんぶ、はいったんだよ。……っ、はぁ……そらの、なかに」
「わかんないっ……けど、おなかのなか、なんか、へんで」
「くるしいの? 気持ち悪い?」
「ちがっ……なんか、わかんないけどっ……」
累の全てを受け入れることができたのだという安心感とともに、湧き上がってくるのは感動にも似た喜びだった。硬く閉じていた目を開いて累を見上げると、累は「はっ……はぁっ……」と何かを堪えるようにきつく眉を寄せ、蕩然とした眼差しで空を見つめているのだ。
青い瞳が潤んで揺れ、今にも泣き出しそうな顔にも見える。累は痛みを感じているのではないかと不安になり、空はそっと、累の頬に触れた。
「るいは……? だいじょぶ、なの……?」
「うん……きもちいいし、うれしくて……もう、かなりイキそう」
「えっ、ほんと?」
「ほんとだよ……。はぁ……っ、そら……」
中を満たされた状態で強く強く抱きしめられ、空は思わず吐息をこぼした。空もまた両脚でぐっと累の腰を包み込み、汗ばんだ累の肩口に顔を埋める。そうしてしばらく抱きしめ合っていると、ようやく累と繋がりあえたのだという実感が込み上げてきた。ついさっきまではあれほど苦しかった異物感が徐々に薄れて、累が呼吸するたびに伝わる微かな震えや、胸の上下でさえも、空の感覚を甘く揺さぶってくる。
そういう空の反応が伝わるのか、累は空の耳にキスをして、「ちょっとだけ……動いてもいい?」と、懇願するように囁いた。
「う、うん……いいよ、ゆっくり、なら……」
「うん、わかった……」
累が慎重な動きで腰を引いてゆくも、内壁を擦られる感覚に不慣れな空は、まだうまく快楽を拾えない。だが累は「はっ……ン……」とぞくぞくするほどにいやらしい吐息を漏らしながら、うっとりと泣きそうな顔で空を見つめた。
「そら、っ……はぁ……」
「るい、きもちいいの……?」
「うん……すごくイイ……。それにずっと、空とこうしたかった、から……なんかもう、夢みたいで」
「ぁ、……ぁっ……ン」
ふたたびナカへと挿入ってくる累のペニスに腹の奥をかすめられ、空はびくん! と腰を震わせた。同時に胸の尖りを指で淡く撫でられて、これまで腹の奥に燻っていた甘い疼きのようなものが、とたんに快楽へと姿を変える。
「ぁ、あっ……るいっ……」
「そら……ここさわられると、ひくひくってするんだね」
「っ……ンっ……し、しらないっ……さっきから、なんか、へんで……っ」
「……かわいい、そら。僕を見て」
「ん……」
累の左手が、そっと空の右手を包み込む。鼻先が触れ合うほどの距離で見つめられながら乳首をなぞられ、ゆっくりとペニスを抽送され、気づけば空は全身を震わせながら「ぁ、っ……ァんっ……」と甘い声を漏らしていた。
「……ハァっ……さっきより、ナカ、あついな」
「ぁ、っ……もう、くるしくなくて、なんか、」
「ん? どうしたの?」
器用に腰を揺らして空の中を愛撫しながら、累は甘えるように空の唇を食む。徐々に互いの呼吸が上がってゆくのを感じるにつれせり上がってくるのは、確かな快感に追い詰められた、あの感覚だ。
空ははぁ、はぁっ……と喘ぎながら、累を見上げた。
「わかんないけど、……っ、おれ、なんかもうっ……いっちゃいそう……っ」
「えっ……ほんと?」
「んっ……ァっ……るい、きもちいい……」
「っ……」
喘ぎ喘ぎそう告げると、中を満たす累の屹立がさらに硬さを持つのが分かった。これまでどこか気遣わしげだった累にもようやく笑みが戻り、深いキスで吐息を奪われる。ゆるやかだったピストンがやや速度を増し、胸をいじっていた累の右手が空の屹立へと降りてゆく。
たっぷりと濡れた感触に包まれたペニスを愛撫されながら深く穿たれて、空の口からもとうとう高い声が溢れ出す。
「ぁっ……! ぁ、るいっ……そこ、ァっ、はぁっ……」
「そら、……そら、うれしい。僕で、気持ちよくなってくれたんだ……うれしいよ」
「ンっ……ァ、だめ、そんなっ……ァ、あんっ……!」
「そら、すきだよ……すき、あいしてる。ぼくだけの、そら……っ」
「ん、ぁっ……やだ、も……っ、いっちゃう、いっちゃうからっ……っ……!!」
全身をきつく抱き込まれながら累の抽送を受け入れるうち、空の中に生まれつつあった快感が、とうとう溢れた。空は四肢でぎゅうっと累にしがみつきながら体全体を震わせて、「んっ……ンっ……んんっ……!!」と達していた。
同時に内壁もきゅうっと締まってしまったらしく、累が「っ……そらっ……ハァ……ぁっ」と低く呻いて、ほぼ同時に腰をぶるりと震わせた。
瞼の裏にチカチカと光がまたたくような光を感じていた空は、ゆっくりと目を開く。そして、脱力した累の身体を、包み込むように抱きしめた。
「……そら……」
「ん……?」
「そら……空」
うわごとのように空の名を呼んでいた累がようやく視線を上げ、空の下唇にキスをする。そして空の髪に指を通しながら甘えるように何度も啄み、整った顔にとろけるような笑みを浮かべた。こんなにも無防備に、全てを曝け出すかのような累の表情は初めてだ。きっと自分の顔も、ゆるゆるに緩んでいるに違いない――空はそんなことを思いながら、微かに震える手で、累の金色の髪を柔らかく撫でる。
くすぐったそうに目を細め、幸せそうに笑う累の美しさにうっとりしていると、累はゆっくりと空から身体を離し、いたわるように鎖骨にキスをした。
「ねぇ……そら」
「ん……?」
「僕と……結婚してくれる?」
「…………えっ? え?」
初めてのセックスに成功し、くったりと脱力していたところに、突然再びのプロポーズだ。空がきょとんとして目を瞬いていると、累はすっと笑みをおさめて、真摯な表情でこう言った。
「もちろん、今すぐにってわけじゃないよ。一人の男としても、ヴァイオリニストとしても、きちんと自立できるようになったら……その時は」
累は空の手を取って、指の背に唇を触れた。そして、決意を漲らせたきらめく瞳で、真っ直ぐに空を見つめた。
「僕と、結婚して欲しい」
「ひ、ひぇぇ……」
まだ色々な余韻に痺れている心と身体に、累の言葉がずきゅんと響いた。
ふと、あの再会の日、夏空の残る空港でプロポーズされたときのことが思い出される。再会の喜びと寝不足の高揚感の中で愛の宣誓をしてきた累の想いは、あの頃の空にはまだまだ受け入れ難いものだった。あれだけ愛の言葉を贈られ続けていたというのに、累のことはずっと『親友』だと思っていたから。
だが今は、その言葉に重みを感じる。
累は、空を何より大切にしてくれる。そして、ヴァイオリイストとしての能力と才能を、これ以上ない場所で空に示してみせたのだ。そして、これからも音楽家であり続けるための努力を、きっと累は惜しまないだろう。他ならぬ、空のために。
ここまで大きな感情を真っ直ぐに注がれて、心が動かないわけがない。
あまりにも真剣で、あまりにもストレートな累の気持ちが、純粋に嬉しい。これからもずっと変わらず累のそばにいたいという気持ちは、空も同じなのだから。
緊張気味にこちらを見つめる累に向かって微笑むと、空はこくんとひとつ、頷いた。
「いいよ」
「え、ほんと……? 空港の時みたいに、もっと落ち着けとか、現実見ろとか、いわないの?」
「俺……そんなこと言ったっけ」
「あんまり覚えてないけど、あの時は突っ走りすぎて断られたから……。でも、今、イエスって言ってくれたの?」
大きな目をキラキラと輝かせながら勢いこんでそう尋ねてくる累の背後に、ぶんぶん上下する尻尾が見える気がした。空はふふっと微笑んで、もう一度大きくうなずく。
「イエスだよ。俺だってもう、累以外の人と一緒にいる未来なんて、想像できないし」
「ほ、ほんと!?」
「うん。お互い大人になったら、だけどね」
「うん、……うん! あぁ、空……ありがとう。嬉しい……すっごく嬉しいよ!」
「うっぐ」
ぎゅうぎゅうと強い力で抱きしめられて、息が止まってしまいそうになる。空が「苦しい……苦しいよ累」と声をあげると、累は腕の力を緩めて愛おしげに空を見つめた。そして宝石のような笑顔をほころばせ、「大好きだよ」と甘い声音で囁く。
「うう……まぶしい」
「ん?」
「う……ううん、なんでもない。あ、あのさ……シャワーとか、借りてもいい? あの、その……」
事後の身体は色々なもので濡れているのだ。横寝の体勢になった空がもぞもぞと脚を擦り寄せていると、累は改めて空の全身をしげしげと眺め、指先でそっと空の腰のラインを撫でてくる。
「ひぇっ! へ、変な触り方しないでよ!!」
「変? だって空の裸、すごくきれいだ。いつまででも見ていたいよ」
「そ、それはどうも……」
「一緒にシャワー浴びよう。僕がちゃんときれいにしてあげるからね」
「うっ……うん……ありがと」
累は何の恥じらいもなく素っ裸のまま立ち上がり、空に手を差し伸べた。一切の無駄もなく、ほっそりと美しく引き締まった裸体を前にして照れてしまった空は、そっぽを向き向き「パンツぐらい履きなよ!」と言った。
空の世話を焼くのは当然といわんばかりの張り切った笑顔に、保育園時代の累の表情を思い出す。何においても拙かった空の手を引き、助けてくれた幼い累も、今と同じ顔をしていたような気がする。それが何だか可笑しくて、空は思わず笑ってしまった。
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