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2025年 クリスマス番外編SS【前】
おはようございます✨
メリークリスマスイブ🎄✨
累空でクリスマスネタを書いたのが去年かと思いきや三年前という現実に驚愕しております……!
今年もほのぼのクリスマスネタを書いてみました。
後半は今夜21時に更新します。
楽しんでいただけますように🎅💕
˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚✩⑅⋆˚˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚✩⑅⋆˚˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚✩⑅⋆˚
「よっ……と」
フライパンの柄をくっと引くと、鉄板の上で、くるっとホットケーキがひっくり返る。
フライ返しでひっくり返せばいいのだが、小さい頃に兄・彩人がやっているのを見たときから憧れがあって、中学に入るあたりからずっと練習してきた技だ。
中三のとき、初めてホットケーキをエアでひっくり返せたときはびっくりして、「兄ちゃん! 壱成! 見て見て!!」と、ふたりの兄を慌てて呼び寄せ、もう一度技を披露しようとした。
だが二度目はうまくできなくて、地団駄を踏んだものである。
だが二十歳になった今は、百発九九中くらいの成功率だ。今朝もやすやすと成功した。
鼻歌まじりにホットケーキを皿に盛りつけていると、洗顔を済ませてリビングにやってきたワイシャツ姿の壱成がキッチンを覗き込んできた。
「おはよう空くん。朝ごはん、ありがとね」
「おはよ、壱成。全然大丈夫だよー、冬休みだし、今日はバイトもないし」
今朝の朝食はホットケーキと、もうひとつの小ぶりなフライパンで焼いていたベーコンと卵。そしてちぎっただけのレタスだ。壱成がマグカップにコーヒーを注ぐ音と気配をすぐそばに感じながら、空は三人分の朝食を完成させた。
「ふぁ……おはよ」
「おはよー、兄ちゃん」
「おはよ彩人。わー、ひどい寝癖だな」
テーブルに皿を並べていると、彩人がのっそりと起きてきた。
コーヒーを片手に、壱成が寝ぼけ眼の彩人の髪を梳く。すると彩人は、流れるようにその手を取って壱成の手の甲にキスをした。
そして壱成が「空くんの前でやめろよっ」と怒りつつも照れくさそうな顔をしていて——……毎朝よくやるなぁと感心半分、呆れ半分で兄たちの朝のイチャイチャを見守る空だ。
経営側に回ったとはいえ、フロアに出ることもあれば新人教育も忙しい彩人は、相変わらず帰宅は明け方が近い。もう少し寝ていたらいいのにと空は思うが、朝食は一緒に摂りたいという兄のこだわりは理解できる。
普通のサラリーマンをやっている壱成とは生活時間がまるきり逆だし、空も最近は家を空ける時間が増えた。三人揃って食事ができる時間は限られているといえば限られている。
「はぁ……いい匂い。いただきます」
「はーい、どーぞ」
テーブルについて合掌する彩人に声をかけ、空も牛乳パックを片手に席につく。
目をしょぼつかせていた彩人が空の作った朝食を食べるうち徐々に覚醒していく様子を眺めつつ、ふんわり焼けたホットケーキをひと口。
「今日、空くんは累くんとこ?」
と、壱成。
「あ、うん。今日はね石ケ森さんとサーシャも来るんだ」
「へえ、四人でイブにホームパーティか。すごい音楽家率だな」
と、彩人が微笑む。
「25はみんな仕事みたいだけど、今日は奇跡的にそろってオフだったみたいでさー」
「そっか。いっときはどうなることかと思ってたけど、石ケ森さんとも仲良くなれてよかったね、空くん」
「へへ……まあ、そうだよね」
嫉妬や疎外感のようなものに苦しめられていた頃のことをよく知る壱成が、若干目を潤ませながらうんうんと頷いている。きっと壱成から話を聞いているのだろう彩人も、静かな瞳で空を見つめていた。
兄たちにそんな顔をされてしまうと気まずいやら気恥ずかしいやら。空はマグカップのカフェオレを一気飲みした。
「去年やってもらったクリスマスコンサート、あれめちゃくちゃ評判良かったんだよなぁ。またやってくんねーかな」
「でもそうなると、空くんが累くんと過ごせなくなるだろ?」
「そーなんだよね。今年は平日で壱成も来れねーしなぁ」
「いや、俺は別にいてもいなくても……」
「そこは俺の士気にかかわるっつーか」
「えぇ?」
……という兄たちのやりとりを聞きつつ、空は今夜の集まりに想いを馳せる。
「イブ空いてるの? じゃあみんなでパーティしよう!」と、累と賢二郎がデュオの練習でレッスン室にこもっていたとき、乱入してきたサーシャがそう提案してきたらしい。
空とふたりきりで過ごしたい累は電話口で渋っていたが、そういうクリスマスイブも楽しそうだと思った空が快諾すると、トントン拍子で予定が決まった。
音楽家たちとのクリスマスパーティだ。
ひょっとすると、酔った音楽家たちによる豪華な共演が繰り広げられるかもしれないなぁ——と期待しつつ、空はもりもりと朝食を平らげた。
◇
「ねえルイ、もっと飲みなよ~~。君がこんなにいける口だとは思わなかったなあ~」
「飲むけど……近い……。ちょっと、なんとかしてくださいよ石ケ森さん」
「まあまあ、たまにはええやん。絵面ええよ、一枚撮っとこ」
累の身長ほどの大きさのツリーが飾られた高比良家のリビング。
ソファとソファの間に置かれたガラステーブルの上には、サーシャが持ち込んだシャンパンやワイン、そしてピザやサラダなどの軽食がずらりと並んで賑やかだ。
累の家に空以外の来客があるのは珍しい。累には空以外に友達らしい友達ができたことがなかったため、この家に友人を招くのは初めてのことだ。
——そう思うと、石ケ森さんとサーシャさん、累にとってはけっこう大事な存在なんだろうなぁ……。
長い脚を組み、累の肩に手を回して楽しげにシャンパングラスを傾けるサーシャ。
そして、ソファで横並びになった累とサーシャの姿をカシャシャシャシャと連写している賢二郎の姿を眺めながら、空はひとりでこっそり微笑んだ。
それにしても、累とサーシャが並ぶと確かに絵面がいい。空もスッとスマホを取り出して、くっついているふたりを連写しておいた。
「ちょっ……空まで」
「まあまあ、いいじゃん。あ、ピザなくなっちゃったね、もっと焼いてくる」
「あ、僕も手伝うわ」
この日のために買っておいた冷凍ピザが思いのほか美味しくて、あっという間になくなった。空が立ち上がると、賢二郎もついてくる。
「にしてもでっかい家やなぁ。しかもここが、あのニコラ・ルイーズ・高比良の自宅……聖地やん」
「あ、そっか。石ケ森さんは累のお母さんのことも知ってるんだ」
「そらそうやで! 君は知らんかもしれんけど、第一線でバリバリやってはった頃のニコラの神々しさいうたらもう……ほんまに女神みたいで、演奏も華やかで神がかってて……」
軽く酔っ払った賢二郎は、ニコラへの賞賛が止まらない。
幼い頃から累のお母さんとしての彼女のことは知っているが、ヴァイオリニストの賢二郎の目に映るニコラの姿は空の認識とずいぶん異なるようだ。
「あとで防音室とか見せてもらったら? 累、小さい頃そこでニコラさんにレッスンつけてもらったりしてたし」
「え!? ホンマ!? 見たい見たい!!」
くわっと目を見開いて迫ってくる賢二郎に若干びびりつつ、空は苦笑した。とりあえず冷凍ピザを焼きたい。
「あの女神様の息子があれか~……遺伝子やなぁ」
オーブンの前でちびちびとグラスからワインを飲みつつ、ソファでサーシャに絡まれている累を見やる。空と視線が合うと、累は救いを求めるような表情をした。ちょっと情けない顔が可愛くて、笑えてしまう。
「ふふ、あれって」
「喋ってみると普通の子やし、ぼーっとしたとこもあるけど、やっぱ美しさにおいては遺伝子を感じるなぁ……」
「うん、めちゃくちゃわかります」
「やんなぁ~。あんな子に小さい頃からまとわりつかれたら、君も普通の恋愛できひんかったやろなぁ」
「はは……そうなのかなぁ」
「空くんは普通の大学行ってんねやろ? 女の子に告られたりせーへんの?」
「いや……うーん」
空が曖昧に首を傾げると、賢二郎がキリリとした目をさらに見開いて、数センチの距離で顔を近づけてきた。
「え!? なんかあんの!?」
「いやいやいや! 何もないんだけど、告白されることはあって……」
「えー!? ……まあ、そらあるやろなぁ。アイドルみたいで可愛いもんな、君」
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