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【第2話】アマゾンがくるまで(1)

 やわらかな唇を押し入って、口腔に舌が侵入する。  迎えるそれの反応の乏しさに戸惑ったか、男は一旦唇を離した。 「……有夏?」 「ん……んん?」  感触を楽しむ余裕はあるらしい。  有夏と呼ばれた青年の舌先がチロリと自らの唇をなぞる。 「なにぃ、幾ヶ瀬?」 「何じゃなくて……」  再び重ねられる唇。  狭い1DKのアパートの室内。  空気を揺らすのは次第に荒くなる呼吸音と、動く舌と唇がたてるなまめかしい音の微動のみ。  煌々とつけられた灯かりを気にするでもなく、男が二人折り重なっていた。  床に足を投げ出しベッドにもたれるように座る若い男──有夏は指先までだらりと垂らし、されるがままという体勢だ。  右手に有夏の細い肩、そして柔らかな薄茶の髪を左手で撫でて、口づけを繰り返すのは幾ヶ瀬と呼ばれた黒髪の男。 「痛った」  有夏に言われ幾ヶ瀬は少し笑った。  眼鏡を外し、側の座卓に置く。 「痛ったいし」 「ごめんごめん」  眼鏡の縁が額に当たったのだろう。  顔をしかめておでこをさする有夏の手首を、幾ヶ瀬はつかんだ。 「有夏……」  低い声で名を呼ぶと、有夏の肩が微かに震える。  幾ヶ瀬の唇が有夏の耳たぶを甘く噛み、ゆっくりと舌が顎のラインを降りていく。 「はぁっ……どうしよう、幾ヶ瀬」  有夏の声が揺らいだ。

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