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【第5話】中世ヨーロッパの男娼館での営みを妄想シテみる(12)
「……はあっ、幾ヶ瀬。も、いって……ば」
唾液をダラリと頬に垂らして、有夏が息をつく。
「何でもっ……買ってくれるって言った、よね。有夏、欲しいものがある」
いろいろ我を忘れるくせに、そういうことはちゃんと覚えているらしい。
幾ヶ瀬は苦笑いで返した。
「どうかなぁ、今のじゃ買ってあげられないかなぁ」
「は? 何で」
「だってアリカ、男娼の仕事なにもしてなかったでしょ」
「男娼の仕事ってなに……。変態プレイに付き合ってやったってのに」
「変態プレイって……」
「てか、幾ヶ瀬はどういう世界にハマってんの? 心底キッモいわ」
今更ながら若干引き気味の有夏に対して、幾ヶ瀬は「だって楽しいでしょ」と笑う。
「俺だって分かってるから甘えが出ちゃうのかな。次は他のお客を相手にしてみよっか」
「ほかの客……それって何? 幾ヶ瀬、遂に有夏のこと売るの?」
有夏がぽかんと口を開けた。
遂にって何、そんなわけないでしょと幾ヶ瀬が有夏の上唇を舐める。
「だから、例の娼館の別の客って設定だって。イクセさんが来ない日にアリカを買った客で……」
「嘘だろ。まだ続くの、それ? 変態。幾ヶ瀬、へんったいっ!」
変態と言われニヤつく幾ヶ瀬。
「まぁいいでしょ。他の男に抱かれながらも心はイクセさんに、みたいな。身体は許すけど、キスはイクセさんとしかしない、みたいな」
「……自分でイクセさんとか言うし。キモすぎて死ぬ。てか有夏、そういう仕事だったらチューくらいするわ。誰とでもするわ。ガンガンするわ」
「有夏……!」
声をあげてから幾ヶ瀬、困ったように恋人の髪を撫でる。
「実際の有夏はそんな仕事しちゃ駄目だよ」
「うん。有夏、仕事しない」
「う、うん? 堂々とニート宣言を……」
指を絡めてベッドに重なったまま、二人はなかなか動こうとしない。
「それで、有夏の欲しいものって何なの?」
思い出したように幾ヶ瀬が顔をあげた。
ベッド、と有夏が答える。
「え、このベッドじゃ嫌? やっぱり狭いか。それとも自分用のが欲しいの? ちゃんとあるじゃない。有夏のゴミ屋敷……いや、隣りの部屋に」
ゴミ屋敷と言われ、頬を膨らませた有夏が「重い」ともぞもぞ動き出す。
「CMで見たやつ。電動式で頭の部分がウィーンって起き上がるアレ」
「……それって介護用じゃ」
「有夏、快適姿勢でゲームするよ」
一瞬でその状況を思い描いた幾ヶ瀬、有夏の両頬をバチンと音たてて挟んだ。
「そんなの買ってあげられません!」
「中世ヨーロッパの男娼館での営みを妄想シテみる」完
※12回になっちゃったこのお話。
長々と読んでくれてありがとうございました。
次回は「覗いたときは事後でした」というお話だよ。
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