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【第6話】覗いたときは事後でした(5)
叫ぶ有夏に布団をかけてやりながら、幾ヶ瀬はだからごめんってと言って笑った。
それから「あっ!」と声をあげる。
「そうだ。イクセさんじゃないけど、俺も来週出張なんだよ」
「は?」
「1泊2日。有夏と離れるのが辛いから断ったんだけど、店長が分かってくれなくて……」
「……そりゃ店長もびっくりしただろな」
「有夏、寂しい思いさせるけど……」
「あー? はいはい、だいじょぶ」
有夏の声が軽い。
幾ヶ瀬が覗き込むと、彼は両手で自分の顔を隠す。
手首をつかんで強引に開くと、有夏はニヤニヤ笑っていた。
「……有夏、何が楽しいの?」
「あ、いや別に。1泊2日さみしいなーっと。淋しいからゲームでもしようかな。それともゲームかなっと。ドラクエかなぁっと!!!」
自由な生活を想像して浮かれているらしい。
幾ヶ瀬は脱力した。
「有夏だって俺がいないと困るでしょ」
それは確かだろう。生活全般で、幾ヶ瀬は有夏の全てを握っている。
「別に平気。1泊くらい。それに幾ヶ瀬、社蓄時代はしょっちゅう出張してたじゃん。コックにもそんなのあるんだ」
「……あの頃のは出張じゃなくて、単に帰れてなかっただけ。20時間ぶっ通し勤務とか普通だった」
幾ヶ瀬、遠い目で宙を見つめる。
「……あの頃はろくに家に帰れず、有夏に淋しい思いをさせたね」
「や、有夏、全っ然!」
隠しきれてないその笑顔に、幾ヶ瀬はため息をつく。
「まぁいいか。甘いものでも食べる?」
「おー、いいねー」
「ぜんざいでも作るか」
軽く唇を合わせてから、幾ヶ瀬は立ち上がった。
「小豆ゆでるから1時間ほど待ってね」
「は?」
そこから? 有夏が絶句した。
「覗いた時は事後でした」完
「カラフル」につづく
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