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【第7話】カラフル(9)

「へんりひへにゃい……」  ──返事、してない。  あのとき、弁当とともに囁かれた言葉。  それから今朝だって。  これまで何度「好き」と言われたか。  なのに、一度だって返事をしていないことに今気付いたのだ。 「らって、そんなのひちいちひうもんらない……」  ──だって、そんなのいちいち言うもんじゃない。  今も耳の奥には幾ヶ瀬の声が残っているようで。  目を閉じると、すぐそばに顔が迫っているようで。  いつもならば、その手が有夏の頬に触れる筈なのに。  なのに、今はひとり。  有夏の両手の指は、枕の端を握り締めていた。      ※ ※ ※

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