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【第7話】カラフル(14)

 ──さむい。  温かいものに触れたいとヒラリと手を動かす。  バタバタと床をさ迷わせてから、有夏は上体を起こした。 「ヤバ。痛て……」  そのまま床で寝てしまったようだった。  感覚では僅か数分ほどに感じたのだが、夜の静けさはもう深夜のそれである。  数時間ほど寝てしまったのか。  どうりで背中が痛いはずだと腰をさすっている時である。  ドスドスドス。  荒い足音が近付いてくる。  有夏は顔をしかめた。  隣に住む女が酔っぱらって帰ってきたに違いないとでも思ったか。 「あのクソビッチ、たまに1人ですごい叫んでんだよな。キモいわ」  吐き捨てた瞬間、その足音がクソビッチのものでないと悟る。  ガチャガチャと鍵を開ける音がやけに近い。  この部屋だと気付いたのだ。 「ありかぁーーー!!!」  隣りのクソビッチの叫びなんてものじゃない。  玄関での絶叫は静かな夜を破壊した。

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