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【第8話】ヘンタイメガネの変態たる所以(4)
「幾ヶ瀬ぇ―?」
「しかも有夏のこと、有夏チャンって呼んでたよね。身の程も知らず抜け抜けと……」
「何だよ。有夏のことは大抵のヤツが有夏チャンって呼ぶよ? おかしいだろが、幾ヶ瀬。中島はしょうもないヤツで、ホントにしょうもない友だちで、高校卒業してから一回も会ってないしょうもない奴なんだ。第一、アイツはしょうもない」
思いつめたようにブツブツ言い始めた幾ヶ瀬と、床に転がったスマホを見比べ、有夏チャンは小さくため息をついた。
子供っぽくダダをこねる有夏チャンを、ヘンタイメガネがデレながら宥める光景はよくみるけど、今回のコレはちょっと険悪な感じだ。
それにしても見知らぬナカジマよ。
あの有夏チャンに「しょうもない」を連呼されて、何だか哀れな奴だな。
あの有夏チャンに「バカ」とも連呼されていたな。どうにも哀れな奴だ。
「有夏……」
「何だよ」
幾ヶ瀬がスマホを拾い上げた。
「ごめんね、有夏。勝手に解約して。また携帯買おうね」
有夏の表情が和らぐ。
明らかにホッとしたように見受けられた。
だがその顔は次の瞬間、凍り付く。
「有夏は俺とだけ連絡取れるやつ持ってりゃいいんだよ。他の奴と会ってちゃんと話なんてできるの? どうせ何も喋れないでしょ。隣りのクソビッチにさえウンとかウウンしか言えないくせに」
突然名前が出て──いや、名前じゃねぇけどな──盗み聞きしていたアタシは腰を抜かした。
同時に有夏が立ち上がる。
床を蹴るようにして玄関へ。
「有夏、どこ行くの!」
「うっざい! ついて来んな。キモいわ、死ね! 頭冷やせ!」
相変わらず語彙は乏しいが、押し殺した声に怒りがにじみ出ている。
玄関の扉が大きな音をたててバタンと閉まり、アタシの部屋の家具たちがまたびっくりして跳ねた。
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