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【第9話】かきまぜる行為(8)

「こんなとこで……最悪だ。足痛いし、シチューは冷めるし。あぁ? こんなこと、前もなかった?」  そうだっけと返して、幾ヶ瀬は白々しく笑う。 「ごめん、有夏のナカに出しちゃった」 「またぁ!?」  顔をあげた有夏は、そこに信じられないものを見る。 「……幾ヶ瀬?」 「ごめんって。ちゃんと掻き出してあげるから」 「……なにそれ」  幾ヶ瀬の右手は有夏の腰に回されている。  左手は有夏の胸元で、何故だかマグカップを握り締めていた。  中には、何とも言えない白い液体が。  有夏の上気した額がマグカップを視界に捉えた瞬間、青白く変色する。 「すごく聞きたくないんだけど……ソレって」 「いや、だって有夏が出すの困ってたから。咄嗟に?」  別に拭けば良いだけだし、好きなだけ出してくれて構わないのにね。  なんて笑う幾ヶ瀬を、おぞましいものでも見るかのように一瞥して、有夏はじりじりと距離をとる。 「有夏?」 「幾ヶ瀬、キモイ……てか、気持ち悪い」  キッチンならではとでもいえば良いのか?  有夏が出したモノを、幾ヶ瀬はしっかりマグカップに受け止めていたのだ。 「もう俺さ、夕食の時に呑もうかな、コレ……なんてさ。アッハハ!」 「………………」 「有夏のDNAが俺の内部に入って血となり肉となる……ああっ!」 「………………」 「有夏?」  乱れた服装をしっかり直して、後ずさりしながらキッチンを出て行く有夏。  シチューもう一回温め直すね。ごはんにしよとの言葉にフルフルと首を振る。 「有夏、食欲失せたわ。とくに今、シチューとか……見たくない……うう」  その強張った視線に、幾ヶ瀬は改めて己の姿を見下ろしてみる。  全裸でキッチン。手には精液の入ったマグカップを握り締めている。 「あ……」  有夏が引いているのが、ようやく理解できたようだった。  試しにヘラッと笑ってみると、恋人は化け物でも見るような目つきでこちらを見やる。 「こいつ、心底気持ち悪い……」 「で、ですよねぇ……」  しばらく幾ヶ瀬家に、会話は生まれなかった。 「かきまぜる行為」完 「夏のなごり」につづく

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