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【第10話】夏のなごり(7)
コンコンコン。
「ヒッ!」
その音が激しくなったのだ。
現世と霊界との境界を横切るような、まるで扉を叩くような音──そこまで考えて、幾ヶ瀬はチラと横目で扉を見やる。
擦りガラスにうっすらと人影が映っていた。
腕が扉にのびる。
コンコン。
「あり、か……?」
力の入らない手で何とかドアを開けると、しゃがみこんだ有夏が顔をあげた。
何ということはない。
音の正体は、恋人の仕業であったのだ。
「有夏、本当やめて……。悪戯がすぎるから。何でそんなにイキイキとしてるの?」
有夏、良い笑顔で立ち上がり、こちらを見ている。
「いたずらじゃないかも? 実際さっき、幾ヶ瀬の背後に……」
あーあーあーーっと幾ヶ瀬が吠えた。
「そ、そんなこと言う有夏には、お、俺のロケットお化けが襲っちゃうぞ!」
「ロケットオバケ…………」
「……って引かないでよ、有夏。不適切な発言でした!」
チラと下を見て、有夏の笑顔は薄笑いへと変じる。
「ロケットって……萎えっ萎えじゃねぇの」
「う……」
自称「ロケット」の萎え具合。
低い笑い声と不躾な視線に、ソレはますます可哀想な状態になってしまった。
「復活を待ってるよ。ベッドで。ハハッ……」
幾ヶ瀬が早々に風呂を出たのは、言うまでもない。
「夏のなごり」完
11「そうだったのか、胡桃沢家」につづく
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