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【第11話】そうだったのか、胡桃沢家(3)
「姉ちゃん来る。今度の日曜にクルッ」
「え、姉ちゃんって有夏の?」
間抜けな質問だ。
いつもなら、当たり前だろうがと顔を顰められるところだが、今日ばかりは有夏にもそんな余裕はないらしい。
「部屋ちらかってたら怒られる……すごい怒られる。死ぬ。多分死ぬ」
「有夏?」
抱き合ったまま幾ヶ瀬の腕をギュッとつかんで、有夏は顔をあげた。
「がだづげでぇぇぇ……」
「えっ、何て?」
「有夏のへや、片づげでぇぇ……いぐぜぇぇぇ」
べそをかいている。
本来、ちっとも可愛くない筈だが幾ヶ瀬はキュンとしたように頬を染めた。
「でも、日曜って明後日じゃ……無理だよ。俺、明日も出勤だし。もちろん日曜も。既に5連勤でクタクタで、さすがに掃除って気力じゃ……」
「がだづげでぇぇぇいぐぜぇぇぇ……」
号泣した美青年は、幾ヶ瀬の膝の上に乗ってピタリと身体を寄せてきた。
必死の表情から推察するに、色仕掛けを講じているわけではないようだ。
とにかく頼みの綱の幾ヶ瀬にしがみつく。
「ゾヴジのズベジャリズドぉぉぉぉ……」
「えっ、何て!?」
「ゾヴジのズベジャリズドぉ(掃除のスペシャリスト)」と何回か呟いたのち、彼は顔をあげる。
すでに表情がない。
「無」の状態が、なんだか怖い。
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