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【第15話】記念日を一緒に過ごしたい派・気にしない派(1)
引きこもりの常として、彼の朝は遅い。
明け方近くまでゲームをやり込んでいるからだ。
午前7時など、眠りの世界の一番深いところを漂っている時間だろう。
加えて彼はアラームの無機質な音を嫌がる。
切迫感を覚え、不安になってしまうらしい。
従って彼──胡桃沢有夏は今、この上なく不機嫌であった。
「……んだよ……んじだとおもっ……」
目がほとんど開いていない。
長い睫毛の影に黒目がうっすら覗いているが、目の前の光景を見ているのかどうか。
「おはよっ、有夏。いい朝だよ」
「ピピピピピッ」
最大音量のアラーム音を轟かすスマホを手に、幾ヶ瀬はベッドの脇に腰かけていた。
「あーりかっ、今日は何の日か覚えてる?」
気持ち悪いくらいの笑顔で有夏の顔を覗き込む。
「……のおと、やめ……。しね。ありか、もうちょ……ねる」
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