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【第19話】つぎのあさ(2)
「夕べの何だ! 目ぇ覚めた時は一瞬、夢かと思ったけど違ぇわ。お前は放課後になると、ピロピロと有夏の笛吹いてたってのか。ピロピロピロピロと人の笛を!」
「アハハっ。朝から元気だねぇ、有夏。ピロピロピロピロって流行りそう~」
「流行るかっ!」
ヒラヒラ手を振ると、ギロリと睨まれた。
「元気なわけねぇだろ。寿命が縮まったわ。2年……いや、1年半くらい?」
「何で半年刻んだの? だいじょぶ。有夏、絶対長生きするから。そういうタイプだから。大丈夫。うん」
「……どういうタイプだよ」
誤魔化すように幾ヶ瀬は笑い、キッチンへ立った。
洗濯機を回しながら、朝食の準備を始めるのだ。
有夏も、のそのそ起きて洗面所へ消える。
ここ数週間、朝の光景はこうであった。
SNS映えする春恋なんちゃらメニューを店長が考案したせいで、幾ヶ瀬の勤めるレストランはこのところ客足が途切れることのない繁盛振りという。
激務が続くにつれ幾ヶ瀬の精神状態も不安定になり、さしもの有夏も気を遣うようになったらしい。
普段なら出勤する幾ヶ瀬になんか気付きもせずにグーグー寝こけているのに、こうやって起きて朝食を共にする。
まぁ、いつまで続くか分からないのだが。
「ああ、早起きしてくれる有夏やさしいぃ。かわいいぃ」
なんて繰り返しながらおにぎりとヨーグルトと果物という、いつもの朝食メニューを食卓に並べる。
座卓を前に座り込んでいた有夏は尚も浮かぬ顔だ。
「いただきまぁす。有夏、たくさん食べてね。そうだ、今日の夜にでも朝ご飯用のスープを作ろう。いっぱい作って冷凍しとけば朝も簡単だし……有夏?」
おにぎりを持つ手が止まっている。
きれいな顔は訝し気に歪められ、その視線が幾ヶ瀬のそれと絡むことはない。
有夏?
名を呼ぶとようやく、じとっとこちらを見た。
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