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【第30話】独りのときのテンションたるや(1)

 ああ、そろそろ深夜1時になろうか。  駅から徒歩圏内とは言い難い単身者向け賃貸アパート、プラザ中崎の周辺に人影は皆無といって良い。  不便な場所であっても公園や緑が多いというなら住環境にとってプラスにもなろうが、この辺りは小さなマンションやビルがせせこましく立ち並び、昼間は埃っぽく雑多な印象を拭えない。  とぼとぼ──。  といった足取りで足取りで歩を進める長身の男は、幾ヶ瀬である。  疲れを、あるいはストレスを吐き出すように、大きく息をついた。  冷たい空気を胸いっぱいに吸い込むと、ほんの少し表情がやわらいだろうか。  さすがにこの時間ともなると、澄んだ大気が心地良く感じるのだ。  すぐ近くにあるコンビニの灯かりもここまでは届かないが、去年設置された街灯の青い光がぼんやりとアパートを照らしている。  鍵を取り出す手元が迷うことはない。  今日は随分遅くなってしまった。  明日も出勤だというのに……。

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