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【第31話】夢は売りもの(1)
「ありかぁ、ウフフッ」
ニヤニヤ。ニヤニヤ。
一言でいえば「気持ち悪い」である。
頬がだらしなく緩んで、口の端が大きく歪んでいた。
「ねぇ、どうする? どうする? ウフフ……ヒヒッ」
独り言か? ニヤニヤが止まらないといった様子なのは、幾ヶ瀬──休日の昼前の幾ヶ瀬であった。
珍しく連休をもらえたとかで機嫌が良い…ということかと思われたが、異様なニヤつきを見ると、理由はそれだけではないようだ。
「ねぇ、どうしよう。ねぇ、どうする? ウヒヒッ」
だらしない笑顔でそんなことばかり繰り返す。
本当に意味が分からない。
あと、笑い方が気持ち悪い。
ベッドの脚にもたれて両手でコップを持ったまま、有夏は曖昧に頷いてみせた。
逆らうでもなく同意するでもなく。
コミュ障ながらも、これは身についた処世術であった。
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