327 / 359

【第31話】夢は売りもの(1)

「ありかぁ、ウフフッ」  ニヤニヤ。ニヤニヤ。  一言でいえば「気持ち悪い」である。  頬がだらしなく緩んで、口の端が大きく歪んでいた。 「ねぇ、どうする? どうする? ウフフ……ヒヒッ」  独り言か? ニヤニヤが止まらないといった様子なのは、幾ヶ瀬──休日の昼前の幾ヶ瀬であった。  珍しく連休をもらえたとかで機嫌が良い…ということかと思われたが、異様なニヤつきを見ると、理由はそれだけではないようだ。 「ねぇ、どうしよう。ねぇ、どうする? ウヒヒッ」  だらしない笑顔でそんなことばかり繰り返す。  本当に意味が分からない。  あと、笑い方が気持ち悪い。  ベッドの脚にもたれて両手でコップを持ったまま、有夏は曖昧に頷いてみせた。  逆らうでもなく同意するでもなく。  コミュ障ながらも、これは身についた処世術であった。

ともだちにシェアしよう!