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【第31話】夢は売りもの(2)
「まずはマンションでもいっちゃうー? ね、有夏」
「う、うん……」
二度寝を決め込んでいたところ、ベッドの周りで掃除機をかけられて目がさめたのだ。
掃除は多分幾ヶ瀬の趣味なので、鼻歌の声がいつもより高いことにはさして違和感を覚えない。
時間的に「うるさい」とキレるわけにもいかず、もぞもぞと起き出した有夏に向かってこの男は「おはよっ、うふふふっ」と笑い出したのだ。
「うふふっ、うふふふっ。有夏、おはよっ」
でかい身体をクネクネさせて、やけにご機嫌な様子。
一言で表せば──そう、気持ち悪いとしか言いようがないのである。
「おは……ってか、どした?」
「んーん、狭い部屋を掃除してただけだよ?」
「うん……?」
言い方!
狭い部屋なんて、言わなくて良いことをわざわざ!?
「まぁね、今になって考えると、狭い部屋ってのも案外いいもんだけどね?」
「うん……?」
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