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【第37話】春の嵐(8)

 ムードというなら、平気な顔して高校ジャージを着るのもやめてほしいものだと思いながら、両手をあげさせて上着を脱がせる。 「いくせ、早く……」  急かすような口元を舌先でつついた瞬間のこと。  ドン──廊下に大きな音が響いた。 「うわぁ」  呻いたのは2人のうちの、どちらであったろうか。  このタイミングで邪魔が入るって何?  いやはや、お約束だな、と。 「おい、開けろよ。いるんだろ!」  借金の取り立てじゃあるまいし。  ドスのきいた女の怒鳴り声に、有夏が慌てて立ち上がる。 「い、幾ヶ瀬、あと頼むな。あぁ、どっかに隠れなきゃ……」 「隠れるってどこに!? 有夏のお姉さんでしょ? 隠れてどうすんの!」 「いや、ムリムリムリ。有夏にはムリムリ」  そそくさとジャージを拾う姿が何だか情けない。  上半身ペラい半袖Tシャツのまま、有夏はベランダの扉を開けてコソコソ出て行った。 「いやいや、俺の方が無理なんだけど!?」

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