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【第37話】春の嵐(10)

 何度か顔を合わせたことはある筈だが、目の前の女が6姉妹のうちの何番目かは分からない。  有夏そっくりな顔に長い髪──姉たちの姿は幾ヶ瀬にはいつもそんな風に見える。 「いないわけねぇだろ。アイツはひきこもりだから、汚ったねぇ部屋のどっかに埋まって……いや、うふふ。どこに行ったのかしらねぇ。死んだのかしらねぇ」 「さ、さぁ……」  もう嫌。何このやりとり。  何なの、この時間。  玄関から顔だけだして、幾ヶ瀬も「うふふ」と首を傾げてみせた。  追求されたら「コンビニだと思います。探してきます」と言ってこの場から逃げ出そうと思っていたが、何番目かの姉はどうやらそこまでは求めてこないようだった。 「これお土産なのよ。アレに渡しといてくれるかしら」 「へ、へぇ……。どちらに行かれたんですか?」  海外の袋と分かる包みを受け取りながら、幾ヶ瀬は社交辞令で答える。 「毎年行ってるアメリカのビーチって言えば分かると思うわ。うふふっ、あの子、馬鹿だから分かんないかもしれないけどね」 「う、うふふ……」  否定すれば良いのか、頷けば良いのか分からない。

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