422 / 431

【第38話】不毛な目覚め。幾ヶ瀬は悟った。そんな朝。(2)

「ぜぇっ……はぁっ……」  見下ろすベッドには、うっすら微笑んで眠りにつく青年が。  やけに小ぎれいな顔立ちで「スヤスヤ」なんて擬音が溢れていそうだ。 「有夏……こいつ……」  目元をビクビク痙攣させて、物騒な気を垂れ流す幾ヶ瀬とは対照的である。  童話の中で眠っているのは大抵が姫だが、こんな王子がいてもおかしくないと(なまじツラが良いものだから)思わせる印象なのだが。  だが、この王子はタチが悪い。 「ぜぇぜぇ……いい加減にしろよ。絶対に起こしてって言ったよね。ねぇ、8時には絶対に起こしてって。今、半なんだけど!?」  ──スヤスヤ。 「半時間ほど叫び続けてるんだけど、俺!? 朝から喉がつぶれちゃったんだけど!?」  嫌だ嫌だ。  今日はランチの時間、ホールに出なきゃなんないのに。  すでに声ガラガラってどうしたらいいの、なんてブツブツ言っている。  ──スヤスヤ。  それでも表情を崩さず眠りについたままの恋人。  心地よさげな寝息が規則正しく聞こえてくる。 「……ひょっとして、有夏、起きてるんじゃないの?」  あまりに起きないものだから、幾ヶ瀬がふとそんな気になったのも無理はないだろう。 「今から3秒以内に目ぇ覚まさないと、フライパンで頭殴るよ? さーん、にー、いーち……」

ともだちにシェアしよう!