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【第38話】不毛な目覚め。幾ヶ瀬は悟った。そんな朝。(3)
──スヤスヤ。
やはり眠りこけているようだ。
「うむぅ、完全に寝てるか……」
フライパンはともかく、お玉くらいでなら叩いても文句は言えまいと物騒な考えが頭をよぎる。
がっこういくから、あしたのあさはちじにおこして──夕べ有夏はそう言った。小学生が母親に言うような口調で。
学校に行く気になったんだね。8時だね、まかせて──難しい年頃の子を抱えた母親のように幾ヶ瀬は答えたものだ。
で、今朝。
幾ヶ瀬が7時50分から行動を開始したのは、苦戦することを予測していたからだ。
その予想は当たったわけだが、同時に裏切られたとも言えよう。
初めは優しく声をかけた。有夏ぁ、朝だよ──と。
だが、安らかな寝顔が曇ることはない。
考えてみたら、幾ヶ瀬自身が起きるためにかけていたアラーム、そのけたたましい音量にビクともしなかった有夏がそんな程度で目を覚ます筈もなかろう。
肩を揺すっても、声を荒げても、頬やおでこをペチペチ叩いても寝こけている。
「ひょっとして死んでるんじゃ…」
「スヤスヤ」
一応、口元に耳を寄せて寝息を確認してみる。
「うん、生きてるわ。うん、そりゃそうだ」
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