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【第38話】不毛な目覚め。幾ヶ瀬は悟った。そんな朝。(5)

 眠気と腹立ちが入り混じった複雑な表情で、しかし眠気が勝つのか、腕はぺたりとベッドに落ちてしまった。 「なんじ……?」 「は?」 「いまなんじ……?」 「あっ、もう9時かな」 「るり……」  多分、口の中で「9時」と言ったのだろう。  しかし言葉は不明瞭だし、目だって開いてない。 「あの、有夏さん? 学校に行くっていってなかったっけ?」 「らっろう……らっこぅ……がっこう……」  ぼんやりとくり返したのち、有夏は「ふいっ!」と変な声を漏らした。  瞬間、目が半分開く。 「ろこれっていっらのに。ほうほんなりらん……」  起こせって言ったのに! もうこんな時間──なぜ自分は有夏の言葉が理解できるのだろうかと首をひねる幾ヶ瀬。 「ご、ごめん……」  そもそも何で自分が謝らなきゃいけないんだとさらに首をひねりながらも、幾ヶ瀬はそれもまた人の世の理不尽なのかと呟いた。 「は? いるへぇ、らに!?」  は? 幾ヶ瀬、何!?と言っているのだろう。

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