437 / 438

【第39話】にんげんだもの(10)

「毎週買ってたのに。きっと来週になったら1等が当たって金持ちになれるんだって信じて……。そしたら仕事は辞めて、ちょっとしたマンションを買おうって思って。あと電子レンジを新調しようと思って…なのに……おーっおおーーーっっ」  号泣する男を見下ろす有夏の表情はさすがに強張っていた。  人間の本質を目の当たりにして、さしもの有夏も肝を冷やしたようだ。 「い、幾ヶ瀬に半分あげようと思って……」 「ええっ、本当にっ!?」  物凄いスピードで幾ヶ瀬が跳ね起きた。 「6億の半分っていったら3億円……十分だよ、有夏っ! ありがとう、有夏っ!」 「う、うん……」  顔面の筋肉を驚くくらい弛緩させて、幾ヶ瀬がここにきて急に躊躇った様子を見せた。 「でも悪いなぁ、3億なんて貰っちゃったら……いやぁ、悪いよぉ」 「や、悪いのはこっちなんだけど……」 「ん? 何がぁ?」 「ううん…」  有夏の表情が微妙だ。  視線をさ迷わせて、結局、部屋の隅をじっと見つめる。  目元は引きつっており、宝くじが当たった歓喜など微塵も感じられなかった。 「あの、有夏さん……?」 「うん、ごめん。何か、ごめんな……」 「あり……」  何かを悟ったのだろう。  幾ヶ瀬の、乾いた筈の目から再びブワッと涙が噴出し、眼鏡の内側を濡らした。

ともだちにシェアしよう!