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シュガーレス 第1話 俺、ヤッちゃった | 古池十和の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
シュガーレス
第1話 俺、ヤッちゃった
作者:
古池十和
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第1話 俺、ヤッちゃった
佐野佑
(
さの たすく
)
は待ち合わせ場所の駅前まで来て、不安のピークに達していた。プロフィール欄とダイレクトメッセージ三往復分で得た内容を信じれば、相手は二〇代半ばの会社員で、中肉中背で、仕事帰りだからスーツ姿で、目印に今日発売の雑誌を持って立っているという話だった。自己申告のプロフィールが事実かどうかを不安に思っていたわけではないし、ましてやルックスが期待外れだったらどうしようなどと思っていたわけでもない。反対に、自分が相手を落胆させやしないか、それが心配でならなかったのだ。 出会い系アプリを使うのは初めてだった。顔も本名も知らない相手と待ち合わせること自体が初めてだ。でも、それも最重要項目ではない。相手に気に入ってもらえたとしたなら、その次の展開こそが本題の「初めて」であり、今日の最終目的だ。 一八歳の今日に至るまで、特定の誰かと交際したことがない佑は、当然デートの経験もなかった。 でも、長いこと片想いをしている相手の家には何度も行った。一緒に食卓を囲んだこともあれば、布団を並べて寝たことも、一緒に風呂に入ったことすらある。ただ、うんと小さい頃の話だ。つまりその相手というのは、近所に住む幼馴染だった。 「ユウくん?」 雑誌を手にした会社員風の若い男を見つけて、あの人かな、と思って見ていたら、相手のほうから声をかけてきた。長年の想い人の名前で呼ばれ、佑は不思議な気持ちになった。会員登録をする時のニックネームに悩み、思わずその幼馴染の名前で登録してしまったのは自分自身だけれど。 「はい。えっと、アイさんですか」女性の名前みたいだと思った相手のニックネームを口にした。 「そう、アイです」 「あ、はい。あの、今日は来ていただいてありがとうございます。よろしくお願いします」佑は緊張の面持でお辞儀をした。その途端に笑い声が聞こえてきた。 「礼儀正しいね。本当にこういうの、初めてなんだ?」 「は、はい。すいません、変でしたか」 「ううん。いいよ」アイと名乗る男は、雑誌をバッグの中にしまいこんだ。「さて、どうする? お腹空いてる?」 「ちょっと。でも、別にどうしてもってほどじゃ」 アイはにっこり微笑んだ。「何か御馳走するよ。食べたいものある? 若いからガッツリ系がいいかな」 「いえ、それはだめです」 「好きじゃない?」 「そうじゃなくて」佑は顔を真っ赤にした。「お腹は、その、できるだけ空にしておいたほうがいいってネットで見て」 アイは一瞬キョトンとしたあとに、声を立てて笑い出した。「大丈夫だよ、そんなの気にしないで」それから腰を屈めて、佑の耳元で囁いた。「初めてなんだろ? 無理はさせないから」 佑は何も返せずにひたすら赤面していた。そんな佑に目で「行こう」と合図して、アイは歩き出す。佑は慌ててその後を追った。 ユウ。佑がつい名乗ってしまった名前の、本当の主は
榊原悠司
(
さかきばら ゆうじ
)
。小学校の頃、佑の家の向かいに越してきて以来のつきあいになる。年は佑のひとつ下で、小柄で可愛らしい顔立ちをしている割には強気で喧嘩っ早い性格をしていて、学校ではいつも問題児扱いをされていた。穏やかな性格の佑は、家でも学校でも、そんな悠司の世話係を任されることが多かった。実際、悠司は親の言うことなどはろくに聞かないくせに、佑の言うことなら大抵素直に聞いたのだ。 でも、中学に上がると悠司の背はぐんぐんと伸びて、佑が中三、悠司が中二の時にはついに佑を追い抜いた。顔立ちだけなら少女のように可愛いと言われていた悠司も、さすがに男っぽい外見に変貌し、格好いいと言われることのほうが多くなっていた。 それでも、佑にとってはずっと「可愛い」存在だった。先生や親の愚痴も佑には包み隠さず話したし、他校生と喧嘩して反省文を書けと言われた時には手伝ってくれと泣きついてきた。他の人間には決して見せない弱さや甘えを、佑にだけは見せていた。 「なあ、佑。俺、ヤッちゃった」 あれは佑が高一、悠司が中三の夏休みのことだ。受験生になった悠司はさすがに落ち着いて、トラブルを起こすこともなくなり、そして、勉強を教わることを口実に佑の部屋に入り浸るようになっていた。実際は勉強など三〇分もすれば飽きてきて、気分転換と称してゲームをしたり漫画を読んだりしている時間のほうが長かったのだが。 その時の悠司も、勉強などすぐにそっちのけになって、佑のベッドに勝手に寝ころび漫画雑誌を読んでいた。そして、ページをめくりながら唐突にそんなことを言い出したのだった。 「ヤッちゃったって……?」佑は聞き返したが、その意味は当然分かっていた。高校の同級生の間でもそんな話題ばかりが上る年頃だった。 「セックス」 淡々と答えた悠司だったが、ページをめくっていた手が元のページに戻って行った。平静を装ってはいても、内容が頭に入ってこないのだろう。 「相手は、この間、ユウん
家
(
ち
)
の前でチューしてた子?」 「見てたのかよ。趣味悪い」 「空気を入れ替えようと思って窓を開けただけだ。だいたい、道端であんなことするなよ」
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古池十和
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