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怖い

 「……ウガァ」 俺は咆哮してみる。 しかし、男はじっと見つめたまま、地面に追いとった紙の湯呑に手を伸ばす。 「ガルルル」 尖った牙を見せて威嚇をしても、左に口角を上げて、口元へ紙の湯呑を運ぶのみ。 「ウガァ……ガルルル」 「さっきまで日本語普通に話しとったやん? 急にどうしたん!?」 ウハハハと豪快に笑いよるから、此方が吃驚仰天してもうたわ。 「狼男になったら、引っ掻かれてまうな」 敵んなぁ、なんて独りごちて、フッと鼻で笑う始末や。  「アンタ、俺が何者かわかってる?」 「吸血鬼やろ?」 男は俺の問いかけに淡々と答えながら、湯呑を軽く揺らす。 「……わかってるやん」 「血、吸われてるからな」 男はニヤリと笑うた後、又紙の湯呑を口元に持ってきよってスウッと傾けて飲む。 なんでこんなに余裕そうなんやろか。 俺、吸血鬼やで?  普通に考えたら怖いはずやのに。 でも、俺は今、この男の方が怖いと思っとる。 冷静過ぎて、人間らしさを感じひんねん。  「おたく、何百面相してるん?」 清白過ぎる眼で見られたら、途端に羞恥を覚えた。 「アンタのこと、吸い尽くしてまうか考えてたんや」 平然を装って言うたつもりやったけど、俺は顔を背けた。

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