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解らん

 「やっぱり足りんかったんやんけ」 憐れみの声の後、パサッと椋実色の上着が目の端に映り出し、シュルと襟締もその上に乗っかった。 「場所どこ?  一緒か別か言うて」 男はもはや白の開襟シャツに手を掛けとった。 「……何しとんの?」 「吸い尽くす言うてたから準備しようかと思って」 ほら、どこや?  と男は優しく見守ってきよる。 「アンタ、アホちゃう?  吸い尽くすってこと は死ぬいうことやで?」 俺は声を張り上げた。 でも、男は変わらない。 「それでええよ、おたくが満たされるなら本望や」 男は口角を上げて閉眼した。  突如、胸が締め付けられてブワッと血が勢いよく流れよったのを感じた。 熱くて苦しいのと気持ちええので訳が解らん。 只、男を死なせるもんかと腹は据えた。 「吸い尽くすんは今度にするわ……はよ着んと、風邪引くで」 俺が襟締と上着を取って渡すと、鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしとったわ。 「それより、いつまでもここにおってええんか?」 「……大丈夫や、あとは帰るだけやし」 男は悲しそうな表情をしながら襟締を締め、上着を着る。 「おたくどないするん?」 冷静な男は湯呑を振り、顔を上に向けながら口元へと運んでいった。 俺はこの男から離れたない、いや離れられんくなっとった。

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