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第5話 さすがに連日は死ぬだろ 1

 今日も来ませんか、と授業終わりに腕を掴まれ、駿介の家に連れて行かれてしまった。  しかし連日セックスしてたら体がもたない。どうにか誤魔化したい眞樹は、せっかくだから勉強を見てやろうか、と提案した。試験の結果が悪かったら家を出してもらえない、と泣きごとを付け加えると、あなたが勉強してください、と眞樹用のローテーブルを出されてしまった。 「集中できないみたいですね」  駿介はデスクの前に座ったまま振り返った。  副読本とノートを広げていたものの、眞樹の方はほとんど進められなかった。どうも頭が切り替わらない。 「あ、いや……、おまえはわからないところあんのか?」 「今のところはないです」 「じゃあ俺が来た意味ねえじゃん」  べったりとテーブルに覆いかぶさってノートに顎を乗せる。その体勢で問題集を広げて眺めた。  ぱらぱらとめくっていると試験範囲にたどりつく。 「ひとりでやるよりは誰かいた方がいいんで」 「そう? それなら良かったけど」  数字がただの模様に見えてしまって非常にまずい。  計算なのに英語が書かれてるし。  一回通してやって間違った部分にはチェックが入っているから、確認して、そこだけ拾ってやり直そう。何とか意識を手繰り寄せる。 「テスト中さあ、これでいい? って思いながら前見たりしねえ? そこに兄貴はいないんだけど、無意識に確認する癖がついたっていうか」 「……ありますね。試験中、先生はいないのについ訊いてしまうっていうか」  懐かしそうに駿介は言う。  家庭教師としての兄は優しくて辛抱強いのかもしれないが、兄のまま教えてくれる春希はつまらない計算間違えをしていると怖いし、字が汚くても怖い。  笑っていない目をしながら微笑む彼を思い出してしゃきっと背筋が伸びた。こんなことをしている場合ではない。追試とかになったらもっと怖い。  最初の二問はクリアした、この三問目がひねってあって……、問題集をテーブルに置くと筆記用具を取った。理屈がわかっていも公式を実際に使うのは難しくて、ひたすら書きなぐっていく。  答えを確認し、解説を見て、次の問題に進んだ。  数学はボールペンでやるように、間違いが残らないとどこが間違ったかわからないだろう。春希の声が耳元から聞こえる。わかってる。ちょっと黙ってて。ともかくこの単元が終わるまで話しかけるな。  いくつか間違えて、赤でぐりぐりと訂正し、問題集にもう一回チェックを入れてからボールペンを投げ出した。んんーと背伸びをする。 「……うわっ」  駿介が頬杖をついてこちらを見ているのに気づいてびくっとする。 「いたのか」 「僕の部屋です」  くすりと笑って、頬杖をやめて背もたれにもたれた。 「面白いですね。突然スイッチが入るんだ」 「そうか? まあそうだな」  集中力はいつ来るかわからないし、波が来ても一時間ももたない。  だから今はこれで終わりだ。ぱたんと本を閉じてノートと筆記用具とともにカバンにしまう。 「おまえはどこまでやった?」 「ずっとあなたを見てました」 「は? 見るなよ」  人が一生懸命にやってるところを眺めて楽しむとかどういうつもりだ。むっとすると、駿介は焦ったようだった。怒らせたと思ったのかもしれない。 「すみません、ちょっとでも動いたら空気壊しそうだったし」 「……そんなんじゃ壊れねえって」  悪趣味だは思ったが、怒ったわけじゃない。

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