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第5話 さすがに連日は死ぬだろ 2
床から立ち上がると彼のノートを見る。丁寧に英単語が並んでいて、単語を覚えようとしているようだった。
「ちゃんとやってんじゃん」
いろいろマウントを取ってくる相手だったが、一生懸命なのが微笑ましい。
そういやこいつつい昨日まで中学生だったんだよな。見下ろすと、ふわっとした髪が耳や首筋にかぶさっている。ちょっとした悪戯心でかき上げてみるとほんのり赤くなっていた。
叱られてわずかに消沈したようだ。屈むと、軽くキスしてやる。
「ひゃっ」
駿介が驚いたように見上げた。そんなところ、何度も触ったり舐めたりしてるのに、丸い目が年相応に丸まっているのが妙に可愛い。
「ごめん」
「……いえ」
「そういやおまえ、俺の首の裏側に痕つけただろ」
何となくそのあたりをぼりぼり引っかきながらベッドに座る。
「朝、兄貴に指摘されて死ぬほど焦ったから、もうやるなよ」
「へえ、見つかったんですか」
椅子を引いて立ち上がり、駿介はベッドに並んで座った。そして背中側に乗り上げて開襟シャツの襟ぐりを引っ張る。
「あ、まだちゃんと付いてますね」
「やばいからやめろよほんと怖えんだから」
兄弟にバレるとか恥ずかしくて死ぬ。そのうえ彼の教え子に手を出したとわかったら雷が落ちそうだ。
できれば知られたくない。
まだ襟ぐりを引っ張ろうとする駿介の手を払う。
「……わかりました」
いくぶん不服そうだが駿介は頷いた。眞樹はシャツを引っ張って元に戻した。
「頼むぜ。それともう勉強は終わりか?」
「あなたが帰ったら続きをしますよ」
どうします? 尋ねるようにベッドのシーツを撫でるから一瞬迷う。
勉強はセックスをしないための口実だったから、終わってしまったら帰るかやるかだ。時間はぎりぎり、といったところだが。
「……やっぱり今日はなしにしましょう」
決断するより先に、駿介がぱちんと両手を打ち鳴らした。
「えっ」
「えっ、じゃないですよ。あなたも帰って勉強してください」
「いいのか?」
カバンのファスナーをしながら尋ねると、彼は複雑そうな顔をした。
「そりゃあまあ、さっきの誘われ方は魅力的でしたけど」
「誘いってなんだよ。してねえ」
「しました!」
被せ気味に叫ばれる。そういや髪やらキスやらやらかしたな。
思い当たって後頭部をかき乱す。セックスありきの関係だから、それが合図になりかねない。あのときの自分もたぶん無意識にいつも通りに動いてしまったのだろう。
「でもたまには、何もないデートでもいいかなあ、と」
「――ああ」
焦りすぎても上手くいかないから、関係から作っていくのも悪くない。
最終目的は彼を好きになることだ。ひとつの部屋でひとりずつ各々の勉強をしただけだったから、次はもう少しそれらしいことでも。
去り際、また襟ぐりを引っ張られた。唇が降りてきて、ちゅっと濡れた感触があった。
制服を着ているのなら見えない、浅黒い肌に刻まれた染みの上に。
「、ん」
「エロい声出さないでください」
「出してねえ」
「また明日」
にっこり笑って手を振られたから、つい振り返してしまった。
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