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転機4

そう自覚したと同時に、上に覆いかぶさっていたヤツが弾かれるように俺から離れた。 そして「うえー!」と舌を出して悶え苦しんでいる。 俺も俺で気持ちの悪さに口を覆った。 「ちょっと真琴(まこと)!何やってんのよ!?」 「い、いや、木の上で寝転がってたら寝ちゃってて」 「自由人か!」 「ほんとバカなんだから!しかも奏一くんの唇を奪うだなんてー!」 そこでやっと、降って来た相手の顔を見る。 色素の薄い柔らかそうな髪の毛に、大きなアーモンド型の瞳。 こいつ、確か朝の…。 「…野良猫」 「はい?」 口に出ていた言葉に、真琴と呼ばれた男子生徒が首を傾げた。 しかし次には、「あぁ!!」と大きな声を上げ、背負っていたギターケースを下ろしだす。 「やべー!傷ついてないよな!?」 酷く慌てながら、そいつはケースからギターを取り出した。 やや大型のボディのアコギで、ドレッドノートだろう。 ナチュラルカラーでローズウッドサイド。 それなりに年季が入っているが、手入れは行き届いている。 「──ギブソンか…?」 呟いた瞬間、顔を上げたそいつが食い入るように俺の顔を見つめてきた。 その視線にも、呟いていた自分にも驚く。 そしてすぐに後悔した。 これ以上は、触れてはならない。 頭の中で警告音が聞こえてくる。 これ以上はダメだ。 これ以上、踏み込まれるな。 そして俺は、殆ど無意識にその場から立ち去っていた。 後ろから女子生徒たちの声がするが、知ったことではない。 先程真っ直ぐに見つめてきた大きな瞳が頭から離れない。 危険だ。 あいつは、酷く危険だ。

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