1 / 22
俺の世界
気が付いたら、真っ暗闇の中にいた。
見渡してももちろん何も見えない。どこまでも、夜の闇のような黒が広がっているだけ。その黒が自分の体に徐々に纏わり付くような感覚がする。なのに、不思議と不快ではない。
しばらくその感覚に身を委ねる。
微かに何かが聞こえた気がした。目を瞑り、その音に耳を澄ませる。
とくっ、と波打つような音が規則的にどこからか流れてくる。心地よい音だった。いつまでも聞いていたくなるような、優しい、温かな音。
「それ、ヒロの心臓の音やで」
急に暗闇の中から声が聞こえ、大貴 ははっとして目を開けた。声のした方に目を凝らすと、遠くから、誰かがゆっくりとこちらに向かって歩いてくるのが分かった。音も立てず、滑るように軽快に歩いてくる。
浮かび上がるかのように現れたその人物を見て、大貴は一瞬息を止めた。
「有 ……?」
静かに笑ってこちらを見つめているのは、確かに有だった。薄茶色に染めた髪。二重の大きな瞳。健康的な色をした肌。シンプルな無地の白いTシャツとジーンズ。ついでのように自分の服装を確かめると、なぜかパジャマを着ていた。
「ここ、どこ?」
大貴はとりあえず思った疑問を現れた有にぶつける。
「ヒロの創った世界やで」
「は……?」
「ヒロが望んで自分の中に創った別の世界」
「……何言うてんの? 有」
「やから。ここはヒロが勝手に創った世界やねんて。何回言うたら分かんねん。アホか」
馬鹿にするように有に言われて、大貴はムッとした。
「急にそんなん言われてはい、そうですか、なんてなるわけないやろ。お前こそアホか。ほんでもって、もしこれが俺の創った世界だかなんだかやったら、なんでお前がおんねん。勝手に俺の世界入ってくんなや。入場料払え」
「俺かて好きでここにおるわけちゃうわっ。ヒロが俺を創ったからやろっ」
「は? 俺が? お前を?」
「そうやで。ヒロが現実の世界で有ちゃん、有ちゃん言うて、やけど有に全く相手にされへんから、こっちに俺を創ったんやで。俺を好き勝手するためにな。ヤラシイわぁ、自分」
「はあ?? いつ、どこで、俺が有ちゃん、有ちゃん言うたん?? そんなん、してへんわっ。ええ加減なこと言うなやっ」
「そんなん言うても誤魔化せへんで。俺はヒロから生まれたんやから。何でもお見通しやで」
何でもお見通し。その言葉に昔、某テレビ番組でお笑い芸人が歌っていた歌を思い出した。何でもお見通し~言うてたなぁ、とこんな時にしみじみと思い出す。
「おい、戻ってこい」
そう有に言われて、はっと我に返る。
「とにかく。ここでは、お前は何でもできる。望めば何でも手に入るし、俺はお前の要求は拒まれへん」
「……そうなん?」
「おん」
「なあ……そしたら、俺が何か望んだらそれが実際起きるってこと?」
「まあ、そうやな……ちゅーか、お前、今めっちゃヤラシイ顔してんで」
「え? そう?」
「なあ……その前に、もっと疑問持ったりせえへんの? この世界はほんまは夢なんちゃうかとか、ちゃんと帰れるやろうかとか」
「いや、思うけど。聞いたら、有、教えてくれるん?」
「まあ……言える範囲で」
「ほんなら、ええわ。聞きたくなったら聞くし」
「…………」
ここが自分の創った世界で、自分の望み通りにできると聞き、大貴は興奮を隠せない。自分が一番手に入れたいと願っていた有がいて、その有を好きにできるなんて。他の疑問など二の次だった。
ともだちにシェアしよう!