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俺の世界

 気が付いたら、真っ暗闇の中にいた。  見渡してももちろん何も見えない。どこまでも、夜の闇のような黒が広がっているだけ。その黒が自分の体に徐々に纏わり付くような感覚がする。なのに、不思議と不快ではない。  しばらくその感覚に身を委ねる。  微かに何かが聞こえた気がした。目を瞑り、その音に耳を澄ませる。  とくっ、と波打つような音が規則的にどこからか流れてくる。心地よい音だった。いつまでも聞いていたくなるような、優しい、温かな音。 「それ、ヒロの心臓の音やで」  急に暗闇の中から声が聞こえ、大貴(ひろたか)ははっとして目を開けた。声のした方に目を凝らすと、遠くから、誰かがゆっくりとこちらに向かって歩いてくるのが分かった。音も立てず、滑るように軽快に歩いてくる。  浮かび上がるかのように現れたその人物を見て、大貴は一瞬息を止めた。 「(ゆう)……?」  静かに笑ってこちらを見つめているのは、確かに有だった。薄茶色に染めた髪。二重の大きな瞳。健康的な色をした肌。シンプルな無地の白いTシャツとジーンズ。ついでのように自分の服装を確かめると、なぜかパジャマを着ていた。 「ここ、どこ?」  大貴はとりあえず思った疑問を現れた有にぶつける。 「ヒロの創った世界やで」 「は……?」 「ヒロが望んで自分の中に創った別の世界」 「……何言うてんの? 有」 「やから。ここはヒロが勝手に創った世界やねんて。何回言うたら分かんねん。アホか」  馬鹿にするように有に言われて、大貴はムッとした。 「急にそんなん言われてはい、そうですか、なんてなるわけないやろ。お前こそアホか。ほんでもって、もしこれが俺の創った世界だかなんだかやったら、なんでお前がおんねん。勝手に俺の世界入ってくんなや。入場料払え」 「俺かて好きでここにおるわけちゃうわっ。ヒロが俺を創ったからやろっ」 「は? 俺が? お前を?」 「そうやで。ヒロが現実の世界で有ちゃん、有ちゃん言うて、やけど有に全く相手にされへんから、こっちに俺を創ったんやで。俺を好き勝手するためにな。ヤラシイわぁ、自分」 「はあ?? いつ、どこで、俺が有ちゃん、有ちゃん言うたん?? そんなん、してへんわっ。ええ加減なこと言うなやっ」 「そんなん言うても誤魔化せへんで。俺はヒロから生まれたんやから。何でもお見通しやで」  何でもお見通し。その言葉に昔、某テレビ番組でお笑い芸人が歌っていた歌を思い出した。何でもお見通し~言うてたなぁ、とこんな時にしみじみと思い出す。 「おい、戻ってこい」  そう有に言われて、はっと我に返る。 「とにかく。ここでは、お前は何でもできる。望めば何でも手に入るし、俺はお前の要求は拒まれへん」 「……そうなん?」 「おん」 「なあ……そしたら、俺が何か望んだらそれが実際起きるってこと?」 「まあ、そうやな……ちゅーか、お前、今めっちゃヤラシイ顔してんで」 「え? そう?」 「なあ……その前に、もっと疑問持ったりせえへんの? この世界はほんまは夢なんちゃうかとか、ちゃんと帰れるやろうかとか」 「いや、思うけど。聞いたら、有、教えてくれるん?」 「まあ……言える範囲で」 「ほんなら、ええわ。聞きたくなったら聞くし」 「…………」  ここが自分の創った世界で、自分の望み通りにできると聞き、大貴は興奮を隠せない。自分が一番手に入れたいと願っていた有がいて、その有を好きにできるなんて。他の疑問など二の次だった。

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