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第33話

最悪な気持ちで帰宅し、蒼の帰りを家で待った。時間は既に22時を回り、テレビはくだらないバラエティを永遠と流していた。 明日も休みなのだろうか。 朝倉は蒼と観光すると言っていた。 蒼が二人いるわけでもなく、やはり自分を置いていくのだろうか。 このまま帰国すると、次逢えるのはいつなのかも分からない。もしかすると、このまま逢えないかも知れない。 アメリカへのチケット代は高く、何度も往復するほど余裕もなかった。しかしながら、毎日電話を取ることすら出来ないのに、逢いに行っても変わらないこの状況のまま良い筈がない。 かと言って、朝倉との事を責めても解決の見通しが見えない。 ボストンに来た時からずっとか…。 別れた時も会ってたのは知っていたけど、流石に想像するだけで辛かった。 朝倉へ気持ちが移ってしまったのかな、と嫌な考えが片隅に芽生えた。 何の取り柄もなく、碌な付き合いもしてこなかった自分より朝倉の方が魅力的なのは十分分かる。 そして、醒めていく蒼の気持ちも本当はよく分かっていた。逢えない恋人より、逢いに来てくれる同僚の方が嬉しいに決まってる。 もやもやとハイテンションなテレビ番組を聞き流しながしていた。 すると、急に夜なのに珍しく呼び鈴が鳴った。 蒼だったら鍵を持っているので、呼び鈴は必要ない。恐る恐る出ると、蒼を背負いながら背の高い男が立っていた。ブラウンの髪色をし、背が蒼より高く機嫌は良さそうだった。 「あの……?」 「やあ、君がアオイのパートナー?彼、結構飲み過ぎたみたいなんだ。明日は休みだし、ゆっくり休ませてあげて。」 彼はニコニコと笑い、背中で眠そうにしている蒼を引き渡すと早々と帰っていった。 ずしりと重い蒼は珍しく酔っていて、背中に乗せて引き摺りながら寝室まで運んだ。 「………皐月?」 傍にペットボトルの水を置いて、ジャケットを脱がせ寝かせると、蒼は瞼を開き薄緑色の瞳を薄っすらと見せた。 「うん、仕事帰りに飲んでた?」 「……うん、ごめん連絡するべきだったね。」 「いいよ、ゆっくり休んで」 携帯には何もメッセージはなかった。 飲みに行く時間があれば、一緒に過ごしたいと駄々を捏ねたい気分になる。 「……皐月、ごめんね。」 長い前髪を掻き分けて、優しく撫でると蒼はまた瞼を閉じて寝息を立てた。寝顔は昔から変わらず、綺麗で見惚れそうだ。 この可愛い寝顔に免じて、今日は何も言わずにしておこう。すやすやと眠る蒼の瞼と頬にキスを落とした。 その晩、疲れてる蒼を邪魔したくないので、リビングに毛布を持ってソファで寝た。 意外と寝心地は悪くなかったが、身体の大きな蒼に毎晩申し訳ない思いをさせていたなと反省した。 蒼の寝顔で気が緩み、またきちんと話し合えば、なんとかなると楽観的に考えていたのかもしれない。その晩はまったく寝れず、朝方いつの間にかやっと眠りについた。

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