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第34話
リビングのソファで寝ていたはずが、目を醒ますと、いつの間にか寝室へ移動させられていた。誰もいない肌触りの良いシーツに頬を当てながら、ぼんやりとした意識の中で蒼の姿を探した。
起き上がって、リビングへ行くと、蒼は着替えてラフな服装に薄手のジャケットを羽織っていた。昨日の酔った顔は整い、髪も後ろに撫でられ格好良く仕上がっているように見えた。
「………おはよう」
声をかけると、蒼はびくっと身体が揺らし驚いた顔で振り返った。
そんなにびっくりするほど、自分が起きたのが不味かったのだろうか。
「おはよう。まだ寝てて良かったのに…。」
その言葉に棘を感じだが、聞こえないフリをして笑いかけた。
「……どこか、出かけるの?」
予定はなんとなく知っていたが、信じたくなかった。
「ああ、ちょっと仕事でね。ごめん、今日も一緒にいれないんだけど大丈夫?」
なら聞くなとも言えず、笑顔で堪えた。
今日休みなら、一緒にゆっくり過ごす時間は恐らくこの先ないだろう。
いつの間にか、この旅行も残り少しか日数はない。
「大丈夫だよ。こっちにも慣れたし………。仕事大変だね。」
「うん、ちょっと急な呼び出しがあってね。ごめん。」
悲しそうに笑って、事情を話されるとなんと声をかけたらよいのか分からない。
当たり障りのない言葉を探した。
「……夜はまた遅くなる?」
「どうだろう…。早く帰れたら、連絡するよ。」
蒼は気まずそうにそう言うと、顔を見ずに出かけようとした。嘘がつくのが下手だ。すぐ態度に表れて、見え透いた嘘だと分かる。
「………いってらっしゃい。」
「うん、行ってくるね。」
会話は喉が乾燥し、声が張り付きそうだった。こういう嘘を流す術は黒瀬の時から良く学んでおり、処世術のように上手くこなしている自分が憎いほどだった。
笑顔で送り出すと、全てが嫌になり荷物をトランクに詰め込んで家を出た。
付箋が貼られた雑誌が馬鹿みたいに見え、横にあったゴミ箱に投げ捨てた。浮かれた分、馬鹿みたいな自分が浮き彫りになっていくのが阿保くさくて笑える。楽しみにしていた旅行も終盤に差し掛かり、気分は最悪だった。
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