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第31話

ボストン港を臨むとても素敵なロケーションが自慢の店に沈む夕日を眺めながらいただくシーフード料理は最高だった。 黒瀬に昨夜の愚痴を吐露し、わくわくと大きなロブスターのグリルを頬張る黒瀬を呆れた表情で見ながら白ワインを飲んだ。 最近はテイクアウトか簡単な食事しか取っておらず、久しぶりのご馳走と人と会話する食事は美味しかった。 「ボストンも治安はいいけど、気をつけなよ。変な人とかいなかった?」 「………美術館に面白い人ならいたよ。いや、でもハンサムな紳士だったから変な人ではないかな。」 特に会話もせず、お互い視線を交わして絵を眺めるだけだ。それを黒瀬に話したら、感慨深そうな顔をした。 「へぇなんか運命的だね。その人と恋でもしたら?」 そして、ワインを飲みながら黒瀬は茶化すように笑った。散々苦い経験を植え付けられて、良く言うもんだなと呆れる。 悠を見ると綺麗にクラムチャウダーを食べていて、その一生懸命食べる姿が子供らしく微笑ましかった。 「……ないない。それよりも早く仲直りして、現状打破するよ。」 力なく笑ってまたワインを飲み込んだ。 黒瀬も酒好きでチョイスは最高だ。 「けど、わざわざ休みまで取ったのに、彼もそんなに忙しいんだね。普通、アメリカなら休暇返上とかあまりないよ?よっぽど緊急案件だったのかな?」 ぐさぐさと総攻撃をかけるように悪びれずに黒瀬は話す。わざとそう言ってるのか、なんと答えよか迷ってしまう。 「知らないよ。医者も忙しいんだから、そう突っ込むこともできないよ」 「へぇ、まぁ休みの時、ゆっくり過ごせるといいね。僕もまだ滞在しているから、暇になったら呼んで欲しいかな」 遊び相手が欲しいのか、瞳をきらきらさせながら黒瀬は言った。その雰囲気が黒木と似ていてなんだか冷えた心が和らぎ、食欲が沸いた。 「…………連絡はしません、とりあえずはここの食事を食べて帰ります。誘ってくれてありがとう」 そう言ってお互い笑った。 当人達はお互い終わった関係を蒸し返す必要がないのは分かっている。拘りすぎているのは蒼だけで、そんな風にさせた自分が一番悪いのかも知れない。

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