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ピロローグ
「そういえば皐月、足の傷痕は残ってるの?」
蕩けるような甘い雰囲気に互いの足を絡めてまだ横になっていた。
蒼は急に思いついたように、身体を起こし、眉を顰めながら毛布を捲った。そこには縫った痕が数センチ残っており、まだ蒼の瞳には痛々しそうに見えたようで、優しくその部分を指で撫でられた。
頭の傷痕もまた残りそうだが、髪で隠れて分からない。そんなに気にする職業でも性格でもないので、特段困らなかった。
不意に余計な考えが頭をよぎった。
「……なんかさ。」
「え、なに、皐月?」
蒼はぱっと明るい顔になり、こちらを見つめた。逞しく鍛えられた裸体と整った男らしい顔立ちと甘いマスクは、和室のボロ家では浮いて見えた。
「なんかさ、あの黒木君に一生残る傷痕をつけられた感じするよね。…………それって面白いね。」
調子がよく、いつも爽やかな黒木を思い出しクスクスと笑って言うと、蒼は青ざめて、両肩を掴んだ。
「……皐月、それ、絶対黒木君に言わないで。いや、そんな無自覚な事を他の奴に言わないで欲しい。そして、もう一回切らせて。僕が縫うから、お願い……!」
「…………あ、蒼!?」
一体全体、なんの事なのかよく分からないまま、蒼の真剣な表情に圧倒され、ぽかんと口を開けた。流石にまた切られて縫われるのはお断りだ。
「皐月、駄目だよ。そんな、傷痕見る度に嫉妬してしまう……。」
蒼は発狂してしまいそうな悲痛な声で、じっと傷痕を見つめて嘆いた。
「………蒼、落ち着いてくれ。冗談だよ、ほら、ここに俺の痕つけていい?」
薄緑色の瞳が濡れそうになってるのを見かねて、起き上がり、蒼の胸元を優しく撫でると唇を当てて吸った。
蒼は驚きながらも、積極的な自分に抗えるわけなくじっと受け入れる。
「……ッ…皐月、ずるいよ。」
吸い終わると舌先で痕を舐め、赤くなった痕を確認すると、チュッと音を立て何度も同じ場所に軽くキスをして愛撫を繰り返す。とりあえず宥めておけばなんとかなる気がした。
「ん、いや?」
潤んだ薄緑色の瞳を見上げ、蒼の唇にキスをした。蒼は降参したのか、優しく頬を撫でてゆっくりと唇を重ねる。
お互いの舌を絡ませるように、唾液が交錯し、どんどんと深くなっていく。
「…………本当、君には敵わない。」
離れた唇から、どちらか分からない甘い吐息と小さな溜息が漏れた。
「蒼、愛してる。」
完
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