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第58話
蒼と何度も愛し合った。
お互い蕩けるぐらい愛し合い、何度も果てた。
いつの間にか日は落ちて夕方になって、ぐったりとしながら二人で手を繋ぎ、重なり合うように横になっていた。
「………ごめん、縫った所大丈夫?あとで包帯また巻かせて…。」
頭上から申し訳なさそうな声がした。
「大丈夫だよ、もうガーゼで充分だし。」
頭の包帯はほつれて、頭の傷痕を指でなぞりながら確認すると、蒼は後ろから頬にキスをする。
「……本当に無事で良かった。」
「……うん。」
「……………あのさ、皐月、ボストンに一緒に行こう。いや、連れて行きたいんだ。もう、離れたくない。」
蒼は真剣な声で言い、手を繋ぎながら、抱き締めてきた。そう言ってくるのは、なんとなく予想は出来ていた。
「……………いいよ。」
「本当?手続きは家の執事に任せるから、君はサインだけするだけでいいよ。話も通しておくね。」
「………うん……あと、あのさ、槇とさ…。」
「黒瀬さん…?」
蒼は怪訝な顔をした。
どうしてもその前に過去の嫌な印象を払拭したいのと、本当の自分を蒼に知って欲しかった。
「うん、槇とさ、付き合った時の話を、その前にしてもいい?」
言いにくい話題のせいか、声がもつれた。後ろから抱き締められ、表情を見られないで済むのが幸いだった。
「……うん、訊くよ。」
蒼は絡めた手を口元に持っていき、キスをする。甘いひと時が幸せだと感じた。
「……俺、両親を二人交通事故で亡くしててさ、……その時、付き合ってた槇に依存しまいと思って、浮気を許して、黙ってたのもあるんだ。槙にずっと縋ってたんだと思う。」
「………うん。」
「…でも、8年も付き合ってくれて、本当に感謝してて、救われたのは本当なんだ。だから、ずっと浮気されても良かった。縋ってた自分が浅ましくて情けないのも分かってた。散々引き摺って、桐生にも、蒼にも、ちゃんと、こういう事を言えずに付き合ってて、ごめん。」
結局何を伝えようとしてたのか分からないほど上手く話せず、哀しさで涙が頬を伝った。
誰かに縋り付きたくて、寄り添って貰いたかった。だが、黒瀬の結婚を祝福するとともにその願いは諦め、桐生との関係で打ちのめされた。
幸せになる資格なんてないと思って、ヤケクソになりながら誰も知らない土地へ逃げた。
だからか、蒼と再会した時、嬉しさとともに怖かった。本当はこの人と幸せになりたいと願い、無理なんだと諦めていた自分を抑えるので一杯だった。
「……皐月、もっと話そう。もっと、これから時間をかけて話をしよう。」
蒼が長い指を絡めて、救い上げると掌にキスを落とした。
「……うん、時間沢山かけても良いなら…。」
「僕も君が話すまで待ってるよ……。でもやっぱり、掛け過ぎはちょっと嫌だな。」
蒼は拗ねた顔をして、頬に軽くキスをした。
「……わかった。」
拗ねた顔が面白くて、笑った。
「皐月、愛してる。」
蒼は涙で濡れた場所を吸いながら、睫毛に、頬に、ゆっくりとキスを落として、最後に唇を重ねた。
「…本当は沢山電話して、すぐに逢いたかった。」
涙ながらにそう伝えると、蒼はぱっと表情を変えた。
「ごめん、皐月、もう一度、今の台詞言って。」
「え?」
「………いや、君の唇からそんな台詞が聞けるなんて嬉しくてさ。ね、もう一度言って。」
薄緑色の瞳を潤ませながら蒼はせがんだ。
似たような犬を前に悠と公園で見かけ、蒼の顔と重なり思わず噴き出した。
「はは、蒼、台無しだよ……んっ…。」
泣きながら笑うと、蒼は微笑みながらキスをした。
「皐月、好きだよ。」
「…ん、蒼。…………………俺も多分、好き。」
そう言うと、蒼はまた拗ねた。
「多分は余計かな。」
「……嘘だよ、好きだよ、ずっと、愛してる」
蒼の顔を見つめて、お互い笑った。
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