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遅咲きの繚乱(1)

 三十まで童貞だと魔法使いになるという。魔法使いになって九年経過。四十になると何になるのか心配だ。  小さな頃から男が好きで、十五でゲイだと自覚した。  ナイフみたいに尖って周りを傷つけて生きることなんて出来ないから、ひたすら自分がゲイであることを隠した。  平々凡々とした普通の容姿。不細工ではないと思うが、それだけの顔。高くも低くもない背丈。  声だって普通のおっさんの普通の声で。  そんなんだから、自分から積極的にならなければ、もちろん出会いなんかあるわけもなく。  もう少し容姿が良かったら何か違っていたのだろうか。  もう少し…………こう、なんというか、華奢だったりしたら。  そう、オレは男に抱かれたい方なんだ。バリネコってやつか。男に突っ込まれることばかり考えている。  自分でも気持ち悪いとは思うが、性的嗜好なんてそうそう変えれるものでもないし。  鏡にうつった自分をまじまじと見る。  平々凡々の、どちらかと言うとダサ目の自分がこちらを見ている。  ときめかないよな。うん、ときめくわけがない。  トイレに入ってもそもそと自分のものを取り出す。  そして、気がついた。 「うわ、白髪になってんじゃん。」  陰毛に混じった白い色の毛を見て愕然とする。  動揺して抜こうとしたが増えるという噂を思い出してやめた。  もちろん髪の毛にはもうとっくに白いものが混じっている。  若白髪だと言い聞かせるのはとっくに諦めた。  ハゲていないんだからそれだけで幸運なんだろう。  はあと肩を落としながらトイレを出る。  ベッドに近づくと、足をベッドの下に入れて腹筋をする。  誰に見せる予定もないんだから、こんなことしたって無駄だ。  わかってるんだけど……もしかしてのその時にとか。  抱かれたい方だから、ちょっとは綺麗で居たいとか。  マッチョになるのは絶対嫌なんだ、細いのがいいんだ。でも、凝り性で習慣になるとなかなか抜けなくて 、筋トレの回数がどんどん増えて行って、気がついたら結構腹筋が割れて来たりして。  肩幅広くね?とか。  止めればいいのに、止めちゃって腹ぽこになったら大惨事っていうか、四十で肥ったらますます見向きもされないとか、うじうじ悩んだり。  多分、全部無駄な努力なんだ。  三十九年生きてきて、誰にも見向きもされなかった。  これから先だってきっとそうなんだと思う。  ハッテン場みたいな所に行ってみようかと考えたこともある。  調べて、考えて、考えて、考えまくって。  でも、結局勇気が出なくて。  諦めてしまった。  筋トレを終えて、風呂に入る。  身体を洗っている時に、悩んで悩んだ挙句、結局白い毛を引き抜いた。  罪悪感と不安とそれからごまかせたという安堵。  着古したパジャマを上下きちんとお揃いで着て、ごしごしとタオルで頭を拭きながら、カーテンを引いていない窓ごしに向こうを見る。  向こう側の窓は暗い。  帰って来てないんだな。  向かいの部屋にはすごく見栄えのする若い男が住んでいる。  ……なんというかオレの好みの。

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