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遅咲きの繚乱(2)

 背が高くてがっしりした、それでいてしなやかな身体をしている。  くしゃくしゃの長めの黒髪に切れ長の目、自分の身体に自信を持っている若者らしくジャストサイズの洋服をラフな感じで、でもおしゃれに着こなしていた。  男はカーテンを閉めるという習慣がないようで、灯りのついたままの部屋の中で下半身だけスエットをひっかけて歩いていたりして。そのままソファーに横たわってビールを飲んだりとか。  目の毒というか、保養というか。……いや、保養だな。いつもガン見してしまうし。  カーテンがこうして空いているのは、男を一目でもいいから見たいからだったりして。  気づかれたらドン引きされるんだろうけど、やっぱり止められない。  そうやって開けてるのは、見られてもいいからだろうとか、どうせ見えるのはオレの家だけなんだしとか。ぐずぐずいい訳をしている。  男がベランダでタバコをふかしていて、会社から帰ったオレがカーテンを引く時に目が合ったことがあった。  近くで、しかも正面から見た男はすごく綺麗で滅茶苦茶かっこよかった。  どうしようもなく顔が赤くなって、気持ち悪かったと思うんだが。嫌な顔とかしないで会釈をしてくれて、不覚にもときめいてしまった。  それから、外で一度逢ったことがある。  出勤しようと外に出たら、鍵の落ちる音がして。 「あ、落ちましたよ?」  声をかけて鍵を拾い上げた。 「すいません」  低い艶のある声が聞こえて……目をあげた先で振り向いたのは向かいの男だった。  ワイルドに無精ひげを生やして、少し不機嫌な顔をした男の綺麗さと言ったら半端なくて……息が止まって。  それから前の日に男の半裸を見てしまい、散々自分を慰めたことを鮮やかに思い出して、顔に血が上った。  すっと手のひらが差し出される。  その手に触れないように気をつけながら、鍵を手に乗せた。  馬鹿みたいに指が震えて、自分を殴りつけたくなる。  握りこんだ手がかすかに触れた。  それだけのことなのに、すごく嬉しくなる。 「ありがとうございます」  低い声が丁寧に言って、オレの顔を見る。  どこかで見たかなとか思い出そうとしているのかな。  平凡な顔立ちだから向かいに住んでいたって覚えているわけがない。  ぐっと何かが詰まって、涙が出そうになる。  せめて女だったらと思う自分が恥ずかしい。もう少し綺麗だったらとか。  後ろめたくて目を逸らした。  目の隅に男の唇が綻ぶのが映る。  はっとして視線を戻すと、綺麗な顔が微笑んでいた。  すごく…………  馬鹿だな。  おどおどと頭を下げて、全力で走らないように自分を戒めながらその場を離れた。  もう少しオレが若ければ……女ならば。恋焦がれることを許されたのか。  嘘つきめ。どうしようもなく、もう好きになっているじゃないか。  はあってため息をつくと、ベッドに横になる。  横になる前にカーテンを閉めればよかったのに、閉め忘れた。  灯りを消せばよかったのに、消し忘れた。  そして今、いろいろ絶望して起き上がる気力がない。  さっき感じた疼きは心臓を刺して……それから胃を伝わって下半身に降りてくる。  ころりと身体を横にすると、主のいない向かいの部屋を見る。  きっちりと着たパジャマの生地に手を這わせて、かすかな溜息をついた。  指が、もう大きくなりかけている自分の上で止まった。  男を思い出しながら、ゆっくりと自分を慰め始める。 「はあっ……ん……ああん。」  恥ずかしい癖なんだが、オレは喘がないとイケない。  おっさんが喘ぐなんてどうなんだと思うんだが。  でもそうしないといつまでも終わらない。  頭の中で男がなじるような目でオレを見る。  冷たい目に綺麗な身体。後ろを犯される想像に、前が大きく膨らむ。 「んっ……あっ……き、きもちい……ああ……やあっ。 ん、んっ……いきそ……ああん……んーっ。はあっ……ああん」  AVの女優のような喘ぎが口から漏れる。まあそれは当然おっさんの声なんだけど。  強い快感に意識が飛びそうになる。  なんだろう、いつもよりすごく感じる。

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