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おかしな後輩
「先輩の絵を描かせてください!」
そう言い放った男子生徒に、俺、藤井 刻久 は固まっていた。
バスケ部の練習が終わり、帰り支度をしていた俺。
その前にいきなり現れたちびっ子。
そいつは俺の絵を描かせてくれと言う。
正直、唐突過ぎて意味が分からない。
「…まず、お前誰?」
「里中 です!里中陽彩 !1年で美術部入ってます!」
「あ、そう…」
その大きな目をキラキラと輝かせてこちらを見上げてくる里中。
その姿はまるでワンコだ。ポメラニアンだ。
「藤井先輩の絵を、是非描きたいんです!」
「いや、いきなり言われても…」
「お願いします!おれにできることなら何だってしますから!」
「いや、別に頼むことなんかないし…」
勢いのすごい里中に、俺は戸惑い汗を流す。
なんだ、このおかしな後輩は。
季節は春。
少し肌寒くなってきた夕方。
それが俺と里中の、最初の出会いであった。
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