1 / 90

おかしな後輩

「先輩の絵を描かせてください!」 そう言い放った男子生徒に、俺、藤井(ふじい)刻久(ときひさ)は固まっていた。 バスケ部の練習が終わり、帰り支度をしていた俺。 その前にいきなり現れたちびっ子。 そいつは俺の絵を描かせてくれと言う。 正直、唐突過ぎて意味が分からない。 「…まず、お前誰?」 「里中(さとなか)です!里中陽彩(ひいろ)!1年で美術部入ってます!」 「あ、そう…」 その大きな目をキラキラと輝かせてこちらを見上げてくる里中。 その姿はまるでワンコだ。ポメラニアンだ。 「藤井先輩の絵を、是非描きたいんです!」 「いや、いきなり言われても…」 「お願いします!おれにできることなら何だってしますから!」 「いや、別に頼むことなんかないし…」 勢いのすごい里中に、俺は戸惑い汗を流す。 なんだ、このおかしな後輩は。 季節は春。 少し肌寒くなってきた夕方。 それが俺と里中の、最初の出会いであった。

ともだちにシェアしよう!