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※第6話

「っん!」 棗と、棗とキスをしている。その事実を飲み込むのにどれ程の時間がかかっただろうか。顎先を捕らえていた棗の指は僕の後頭部に添えられ、手のひら全体で強く包まれている。 僕の唇を食むだけだった棗の厚い唇の合間から、ぬめりと熱い舌が表れたのが口先の感触でわかる。ざらりと僕の唇を割り開くように棗の舌が押し入ってくる。 ぞくりとした感覚が背筋をかけ上がる。力が抜け思わず口を開いたその瞬間、棗はすかさず僕の口中へとその熱くぬめった舌を突き入れた。 「っんんぅっ!んんっ!」 棗の舌先が丁寧にゆっくりと歯列をなぞり、経験したことのない浮遊感が僕の身体と脳を襲った。全身から力が抜け、座り込みそうになったが、棗が僕の腰に腕をまわし支えてくれたおかげで体制を崩さずに済んだ。 棗はいったん口を離すと、棗に体重を預け寄りかかる僕を見下ろした。 「っはぁ、はぁ、」 深いキスと羞恥で息を乱す僕を、ひとしきり無言で眺めた後、棗はもう一度僕に口づける。ちゅっ、ちゅっ、と音をたてて僕の口端に垂れたどちらのものとも分からないよだれを吸い上げる。 どうしようもない僕は力の入らない指先で棗の背中に触れた。すると棗はもう一度唇を離し、僕の目を見つめた。焦点の合わない視界で棗が微笑んだ気配を感じた。 棗はなだめるようにそっと僕の頭を撫でると耳もとで優しい声で告げた。 「まだ、これからだよ?」 棗は僕の体を抱えると風呂場へと移動した。 フワフワする頭では思考がままならず、僕は棗にされるがまま、今は背後からシャンプーを施されている。 何故、こんなことになっているんだろうか?働かない頭で考える。棗は男もイケるのか、と聞いていた。それから、俺にしろと言っていた。気持ちよくする、とも。 「帛紗、気持ちいい?」 シャンプーは気持ちいい。大好きな棗に触れられているだけでもたまらないというのに、時折、棗の骨ばった指が耳や首をかすめて、変な声が漏れそうになるのを押さえるので必死だった。 「っうん、きもち、」 返事をしようと口を開いたタイミングで、また棗が耳の後ろをくすぐった。こらえきれずに掠れた声をだしてしまった。 後ろで棗が笑った気配がして、振り向こうとした時、棗はシャワーヘッドに手を伸ばす。棗がどんなつもりなのか確かめておきたかったが、流水音に遮られ上手く聞けなかった。 それから棗は終始優しい手つきで僕の体を洗った。浴室に響く棗の甘い声や息と、未だに慣れない棗と同じソープ類の香りにほだされて話すタイミングをつかめなきかった。 呆けているうちに棗は僕にトリートメントを施し、身体を洗い、果てには僕の下肢に手を伸ばした。 「っな、なつめっ?」 たまらず名前を呼んだ僕に、んー?と曖昧な返事をしてなおも棗は太ももに伸ばす手を止めなかった。 「もっと気持ちよくなろうね?」 甘く優しい声でそう告げると、ボディソープでぬめった指で膝から太もも、太ももから脚の付け根へと強すぎず弱すぎない程よい力加減で撫でつける。 「ふぅっ、ぅあ、なぁ、つめぇ、」 その手を止めるよう声を掛けるが、棗の手は止まるどころかさらに妖艶に僕の下肢を撫でまわす。棗の手に手を重ね、掴んで止めようとするも、執拗な愛撫に力が抜けて棗の腕にすがりつくだけになってしまう。 力の入らない身体は背後にいる棗に抱きしめられるようにして支えられている。濡れたシャツ越しに棗の厚い胸板の感触が伝わり、すでに高ぶった心と体がさらに高まってしまう。 僕は一糸もまとっていないのに、棗は着ていた服を1枚も脱いでいない。その事実に気づき、さらに羞恥が煽られた。 「なつめ、も、脱いで?」 気づけばそんな言葉が口から出ていた。 見上げた先に棗の顔があるが、影になって表情がよく見えなかった。返事をしない棗に焦りが募って、失言だったと慌てて訂正を試みた。 しかしその瞬間、棗は勢いよくシャツを脱ぎ去った。 「帛紗、あんまり煽らないで。」 そう言うと棗はもう一度僕を後ろから抱え、下肢へと手を当てた。先ほどとは違い、直に触れる棗の滑らかな肌に僕の濡れた背中が密着する。棗の体温を直に感じて、今度こそ何も考えられなくなってしまった。

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