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第25話 side棗

いつもなら後ろから抱きしめると振り向いてキスしてくれる棗が、今日はぎこちなくうつむいていた。 それにあのワインだって不自然だ。帛紗はお酒が好きなわけではないし、誰かに誘われて一緒に飲むためならまだしも、わざわざ自分が飲むために買っているのは見たことがない。 伊万里のオススメだと言っていたから、興味が湧いて、本当に他意なく買ってきただけかもしれないが、いつもと様子の違う帛紗に少し不安を覚えた。 いつだったか、飲み会の日に帛紗が酒を飲んだ時、帛紗は隣に座っていた男に寄りかかって眠っていた。見つけてすぐさま引き離したが、あまり酒に強くないらしい帛紗は少量でも飲めばひとにひっつきたくなってしまうらしい。 帛紗自身、酒に酔った時の記憶はあるらしく、恥ずかしいからあまり飲まないのだと言っていた。 恥ずかしいからあまり飲まないだけで、本当は酒が好きなんだろうか。それを言い出しづらくてぎこちなかったんだろうか。 それとも、何か俺に言いたいことがあって、酒の力を借りようとしているんだろうか。 帛紗の言動の真意が読めず、何にせよきちんと話をしようと決めてダイニングに戻ったとき、帛紗は既に酔っていた。 キッチンの上を見れば、先ほど入っていたワインが半分ほど減っていた。 寄ってきて、俺を抱きしめ、胸元で頬ずりを繰り返す帛紗の頭をなでながら問う。 「帛紗、ワイン飲んだの?」 何があったのか聞きたかったが、帛紗は俺の声が聞こえているのかいないのか、涙目で語り始めた。 「なつめ、ごめんなさい。」 俺はひたすら帛紗の頭をなでながら聞いた。 「ぼく、なつめに、わるいことしちゃった。」 なるべく優しい声音になるよう気を付けながら続きを促す。 「これ、なつめにのんでほしくて、」 そう言って開かれた帛紗の手にあるものを見て、俺は驚いた。封は切られているが、中身は減っていなかった。 「これ媚薬?どうしてこんなもの」 そう問えば、帛紗はまた、ごめんなさいと謝った。 「ぼく、またなつめに抱いてほしくて、でも、どういえばいいのか、分からなくて、」 俺はまた、帛紗を困らせてしまっていた。 「だから、こんなもの使おうとした。ずるいよね、なつめにだまって、よくわからないもの飲ませるなんて、しようとして、ごめんなさい。」 帛紗はまだ俺とそういうことをしたいと思ってくれていたのに、上手くできずにいたせいで、また帛紗に変なことをさせてしまった。 帛紗の頭を撫で、潤んだ目を見つめて、また自分の情けなさを実感した。 「俺のほうこそごめん、もっと上手く、そういう流れを作るべきだったよね。」 そっと帛紗の額に唇を寄せた。そうすれば帛紗は俺の背中に手をまわし、顔を俺の胸元に寄せてううん、と言いながら左右の頬を交互に擦り付けた。 「なつめが、大切にしてくれてるんだって、分かってるし、ゆっくりでいいとも思ってる。」 帛紗の頭を撫でながら、続く言葉を聞いて覚悟を決めた。 「でも、なつめが求めてくれるなら、ぼくはいつだっていいから。」 帛紗と愛し合いたい。 「ありがとう。俺だって今すぐにでも抱きたいよ。」 赤く染まった帛紗の頬が可愛くて、思わず指でなぞった。 「なつめ、」 そっとキスをして、いったん唇を離して、間近で目を合わせた。 「だけど帛紗、俺お酒にも薬にも頼りたくはないから、もう少し酔いが醒めてからにしようか?」 物欲しげな帛紗の瞳に、下腹が疼いた気がした。でもダメだ。恋人になってはじめの1回は、勢いでなんてしたくない。 「先に食事にしよう?」 そう言えば、帛紗はしぶしぶといった風に頷いた。 それからゆっくり食事をして、一緒に洗い物をして、ずいぶん酔いが醒めて恥ずかしがる帛紗を風呂に入れて、髪を乾かして、ふたりでベッドに入った。

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