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第6話

「まずは着替えないとな」  俺はあらためて遥のファッションをチェックした。糊の効いたカッターシャツにきちんと折り目の着いたスラックス....では釣りには向かない。 「Tシャツとチノパン、持ってきたろ?」 「うん」  チラリと桜木を見るとモバイルで誰かに指示を入れている。すぐにもう一人の護衛の兄さんが淡いペパーミントグリーンのチノパンと真っ白なTシャツを持ってきた。  俺は桜木と遥を庭先の小さなトレーラーハウスに案内した。 「邑妹(ユイメイ)、着替えをくれ」  ドアを開けると、邑妹(ユイメイ)がにっこり笑って、カウチの上を指差した。  俺はカーキ色のタンクトップとカーゴパンツに履き替え、壁に掛けておいたライフジャケットを取り、Tシャツ姿の遥の首にスポン、とかけた。遥かが目を丸くして 「防弾ベスト、着けるの?」 と訊いた。さすがに邑妹(ユイメイ)もぷっ....と噴き出した。 「ライフ-ジャケットだよ。いわゆる救命胴衣ってやつだ。水辺に出るときのマナーだ。そこの兄さんのぶんもある」  俺は自分用のライフ-ジャケットを着け、桜木用にもひとつ手渡す。遥と桜木に長靴を履かせ、俺は安全靴の紐を締めて、迷彩のウィンドブレイカーを羽織った。 「これも忘れるな」  撥水性の蛍光色のジャケットを来た、遥の頭にキャップを被せ、サングラスを手渡した。 「海と違って、そんなに髪が痛むことはないが、湖面は照り返しが眩しいからな」 「ラウル......なんだか兵隊みたいだ」  遥が、俺の格好を上から下までしみじみ眺めて言う。 「そりゃ軍隊あがりだからな......」 「小蓮(シャオレン)さまが軍隊?」  桜木が、小さく声を上げた。 「悪いか?」 「いえ......」  世界には交戦国もまだまだあるんだ。ISと対峙したのは、もうずいぶんと昔の話だが、ガタイが変わっても、やはり俺にはこの格好がしっくりくる。 「用意できたか?」  イリーシャがドアを開けて覗き込む。 「バッチリよ。イリーシャ、そっちは?」 「釣竿も餌も用意できてる。いつでも出発できるぞ」  イリーシャと邑妹(ユイメイ)が微笑みを交わす。やっぱり、仲良いよな。俺は警戒する桜木を含めて日本からのお客達に改めてふたりを紹介した。 「遥、言い忘れた。俺の師匠達だ。邑妹(ユイメイ)とイリーシャ......。邑妹(ユイメイ)は俺とミハイルの母親がわりでもある」 「母親がわり......?」 「俺は邑妹(ユイメイ)の養子なんだ。ロシアに来てからずっと面倒見てもらってる。イリーシャも.....」  ニコライ同様、ミハイルの次に大事な人達だ。遥が半ば緊張の面持ちで、手を差し出した。不慣れな英語が、むしろ可愛い。 『高遠遥です。今回はラウルにロシアに呼んでもらって嬉しいです。よろしくお願いします』  邑妹(ユイメイ)が、にっこり微笑んで答える。 『初めまして。小狼(シャオラァ)のお友達ね。話は聞いているわ。仲良くしてあげてね』  遥も邑妹(ユイメイ)のゆっくりで丁寧な英語にほっとしたように笑みを漏らす。 「綺麗な、優しそうな人だね」 「もちろん」  俺は親指を立ててニカッと笑い、真っ青な空の下に飛び出した。 「邑妹(ユイメイ)、行ってくる。期待して待っててくれ!」 「気をつけてね!」  俺達は、邑妹(ユイメイ)に手を振って、フィッシング-ボートに乗り込んだ。チームの仲間が舵を取り、俺と遥、イリーシャ、桜木を乗せた白い船体は、碧色の湖面に乗り出した。

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