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第70話

「私には、会社の演出部や脚本部の偉い方と掛け合う力はござんせんけど」  布団に仰向けに寝ている舟而の枕元で横座りをして、白帆は舟而の顔を見下ろす。  まだ湿り気の残る黒髪がはらりと揺れた。 「口添えも、助太刀も? 僕がアテ書きした役を演りたいと名乗り出てはくれないのかい?」  舟而は猫をあやすように、白帆の顎の下を指の先でくすぐった。白帆は肩を竦めて切れ長な目を細める。 「それは、もちろんさせていただきます。先生のホンは演じたいですもの。『お願いします、このお役を私に演らせてください』と、方々へお手紙を差し上げたり、直接お願いに上がったりするのは、当たり前のことでございます」 「ならば僕は、やはり自分を白帆に差し出すよ」 「さよですか? 私、ここのところ、すこぅしばかし先生に飢えておりますので、差し出されたら頂いてしまいますけれども」  ふふっと笑って、赤い唇をくるりと舌で舐めた。舟而は背筋に震えが上るのを感じた。 「お前さんの好きなように料ってくれ」 「承知いたしました」  寝間の明かりを消し、枕元の電気スタンドを灯す。部屋の中は丸く照らされ、四隅は闇に沈んで、二人は見つめ合った。  白帆は舟而の視線を自分の瞳に惹きつけたまま、ゆっくりと舟而の身体の上に跨る。 「なんて整ったお顔立ちをなさっているんでしょう。そして皆、この目にやられちまうんです。罪な方ですね」  白帆は切れ長な目を細め、細い指先で舟而の頬から顎の線をすうっと辿る。舟而はゆっくり目を(すが)めた。 「ねえ先生、この世だって地獄でございます。どうぞ観に来るお客様方が、この世の憂さをいっとき忘れることができるホンを書いて、私に演じさせてくださいまし」  舟而の顔の脇に両手を、腰の左右に膝をついて、白帆はゆっくり顔を下ろした。  額が触れ合う近さで、互いの吐く息を吸いながら、相手の唇へ目を落とす。  ほんの僅かな身じろぎだけで、二人は次にすべきことを了解し、ゆっくりと唇を重ねた。  白帆の舌がするりと滑り込んで来る。舟而が舐めるとその舌は逃げて、追いかけて白帆の口の中へ舌を差し込むと、前歯で噛んで捕らえられた。そのまま舌を舐め回され、強く吸われる。 「ん……」 「たんと気持ちよくなってくださいましね」  口を離した白帆は、舟而の耳に粘っこい吐息と共にそう囁いて、やわらかく耳朶を食み、赤い唇を首筋から鎖骨へゆっくり這わせる。  その間に舟而の寝間着の胸元ははだけられて、露わになった胸の粒を白帆は小鳥のように啄み始めた。  舟而は腹に小さく力がこもるような甘い刺激を、目を閉じて味わった。 「先生の身体は甘いです……」  白帆は舟而の肌から衣類を取り去りながら、全身余すところなく唇を押しつける。柔らかな唇が揺れる場所から、次々と花開くように喜びが広がっていく。  それは舟而の内腿から左右の足の間の虚栄と羞恥が集まる場所へも同じで、つぶさに唇を触れさせ、ついぞ舟而の変化に舌を這わせた。 「うわ……っ」  根元から先端へ何度も舐め上げられて、舟而の眉間に力がこもったとき、先端を口に含まれた。  熱く湿った粘膜に包まれて、自然に顎が上がる。蠢く舌に呼吸が乱れ、舟而は白帆の黒髪に手を差し入れた。  さらにぬるぬると香油を塗り付けて、茎も双玉も両手で撫でまわされては溜まらない。 「白帆っ、もう、来てくれ……」 「ふふっ、頂戴いたします」  白帆は真珠色の顔に赤い唇でくっきりした笑みを見せると、一気に自分の身体から衣類を取り去って、舟而の腰に跨った。 「はっ、ああン……っ」  舟而の屹立に手を添えて、白帆はゆっくり腰を落としていく。根元まで飲み込むと、舟而と目を合わせながら、左右の膝を大きく開いた。 「白帆……っ」 「お恥ずかしゅうございます。忘れてくださいまし」  白帆は呟くようにそう言うと、手を後ろについて、上下に腰を動かす。 「忘れろって……、無理だろう」  白帆の大胆で明らかな裸体に、舟而の興奮は増すばかりで、瞬きする時間も惜しんでじろじろと見た。

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