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恋_1
side Ω
「篠原、好き!俺と付き合って?」
告ること………六十八回目。
「無・理」
そして振られること………六十八回目。
「あー、玉砕通算六十八回目!」
「よく数えてんね」
「現在新記録更新中」
「目指せギネス世界記録」
「全然嬉しくなーぁい!」
人が疎らになった講義室に虚しい俺の声が響く。
机に突っ伏した俺――浅井 宗一 の隣、喉で笑うのは篠原 美影 。
男の割に長めの髪は細く柔らかいからか、僅かな風にも簡単に靡く。
だからと言って女性らしさがある訳じゃない。
端正な顔立ちや覗く喉仏、ゴツゴツした大きな手は男らしさを匂わせる。
そして何より落ち着きのある声音が俺は好き。
「飽きないね、お前も。俺より優秀なαなんてその辺ゴロゴロ転がってるってのに」
俺達には二種の性がある。
生まれ落ちた瞬間から分かる性別。
それから思春期に判明するバース性。
男と女。
α、β、Ω。
特にバース性は社会的地位を決めてしまうほど影響力が大きい。
一般に人口の殆どがβに属し、αやΩは希少とされる。
βを平均と称するならば、αは優勢、Ωは劣勢だ。
あらゆる能力に長けたαは重宝されるが、Ωは忌み嫌われる。
βよりも劣る能力に、繁殖機能を持つがため定期的に起こる発情期。発情期のΩはフェロモンを漂わせ他者を性的に誘発してしまうことから、世間での肩身は狭い。
呆れた様子で物を言う篠原に与えられた性はα、そして俺はΩだ。
「αだから好きなんじゃないし。篠原だから好きなんだもん」
この台詞だって幾度と口にしてきた。
「はいはい、どーも」
ちゃんと伝わった試しはないんだけどね。
篠原との出会いは四年前、高校の入学式でのこと。
一目惚れなんて人生で経験するなんて思ってもいなかった。
だけど俺は篠原に恋をして、今も尚こうして恋い焦がれている。
「人にそう言うけどさ、篠原だって全然飽きないだろ。あの幼馴染のこと……」
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