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プロローグ

衣擦れの音が、お互いの荒くなった息の音が、やけに響く水音が、秋陽(あきひ)の耳に響いた。  奉日本(たかもと)秋陽の不健康に薄い身体が快楽によって柳のようにしなる。秋陽の白い肌は既に赤く色づいて、秋陽を抱く男の情欲をかきたてる。 「せい、や……」  秋陽が高校時代からの友人であり、秋陽を抱いている男の名前を呼ぶと、男――工藤静也(くどうせいや)は応えるようにキスをしてくれる。  秋陽よりも熱っぽく男らしい唇に、息ごと奪うようにキスをされてしまうと、秋陽は何も考えられなくなってしまう。 「んっ……あぁ」  自分のもとは思えない甘ったるい声が秋陽の唇から漏れる。すると、静也は満足げに笑みを口元に浮かべる。 「……動くぞ。 いいか?」  静也の問いに、秋陽はこくこくと頷くことしかできない。すっかり馴染んだ静也のものが、秋陽の内壁を堪能するようにずるりと擦り上げると、秋陽は堪らずに嬌声を上げた。  いつからこんな爛れた関係になってしまったのだろうか。秋陽はぼんやりとそんなことを考える。  ある日突然静也に抱かれて、そのまま十数年ずるずると関係は続いている。  出会った頃は純粋に秋陽の小説が好きだと言ってくれていた静也は、今では秋陽が憎くて仕方ないとでも言いたげに、乱暴に秋陽を抱く。  しかし、秋陽はそれも仕方がないことだと思っている。何せ、秋陽は静也が好きだと言ってくれた一般文芸から逃げ出して、ゲイであるにも関わらず男女の官能小説を書いて生計を立てている。  これでは静也が秋陽を嫌悪するのも仕方がない。  自分の声が遠くから聞こえる。確かに身体は快楽に悶えているのに、意識だけが身体から乖離していた。

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