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小説は書けない4
特に行きたいところもないし、決めてくれるなら楽で良いと静也と進路について話すことにした。とはいったものの、提出するプリントには進学か就職か、志望校程度の項目しかないので、すぐに終わってしまう。
「文芸学ぶんだろ、当然」
「……当然て、違うかもしれないだろ」
無論、秋陽は国内外問わず文芸について学びたいがために第一志望の大学を選んだ。第二、第三志望も当然ながら文学部、人文学部で選ぶつもりだ。
それでもこうしてひねくれたことを言ってしまうのは、漠然とした劣等感をいつも抱いてしまっているせいだ。
秋陽の家は優秀な者が多い。正確には曾祖父の代で起業に成功し、今ではそこそこの規模を誇る会社に成長している。
秋陽の両親も本社勤務で、秋陽が家の恥にならないように、優秀な人材に育つことを望んでいる。
秋陽の成績は学年でも良い方ではあるものの、飛び抜けて頭が良いわけでもない。それに、秋陽は同性しか愛せないために、跡継ぎを残すことも不可能だろう。
跡継ぎを残せない上に、会社には役に立たない学問を志すことは秋陽にとって心苦しい。
「当然は当然だろ。 秋陽は俺の小説家なんだから」
「……なんだよ、それ」
静也の言葉に思わず瞬きを繰り返す。全く理由になっていないのに、静也は当然のように胸を張る。自分の主張が何も間違ってなどいないとでも言うように。
「ぶっ……、ははっ、尊大なやつだな」
「事実を言ったまでだが?」
何がおかしい、とでも言うように静也は眉根を寄せる。険しい表情をしているにも関わらず、静也の顔は整っている。
静也は今まで何人かと付き合ったのにも関わらず、すぐに分かれてしまったのはこの態度に一端があるに違いない。
「まあいいよ。 実際に俺の小説を一番楽しみにしてくれるのは静也だし……」
それが秋陽には嬉しい。秋陽がいてもいいと、存在意義を見出してくれたように感じられる。
いつもは目標もなく、ただ書くことが自然だったから小説を書いていた。それがいつからから、静也に楽しんで読んでもらえるような小説を書きたいと思うようになっていた。
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