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小説は書けない3

「まさか、違います」 「はいはい、そうですね」  大学生になったといえども、やはり秋陽にとっては年相応の子どもだ。不器用で、不自由なこの子に手を差し伸べてくれる人が現れてくれたらいいのに。  春日を救ってくれた冬美のような人が崇には必要だ。でもそれは秋陽でも春日でも駄目なのだろう。  それでもいつか現れてくれると秋陽は信じていた。  春日にとっての冬美のように、秋陽にとっての静也のように、形は違えど肯定してくれる人がいるはずだ。  ――……本当に?  脳内で声が響く。冷たくて、突き放すような声。  高校に入学したのはつい先日だったと思ったのに、気がつけばもう二年生の秋になっていた。  こんなに時間が過ぎるのが早いのはきっと、静也と出会ったからだろう。  出会った頃は冷やかしか嫌がらせか、とにかく秋陽にとって嫌な意味で近づいてきたのだろうと思ったが、それは間違いだった。  秋陽の書いた小説を純粋に好きだと言い、楽しそうに読んでくれた。少しずつ話してみると、無愛想で威圧感はあるものの、興味のないことに無頓着なだけで、良いやつだということがわかった。  さっぱりした性格や話、波長が合うことがわかって一緒にいることが増えた。  それに、自分の書いた小説を純粋に好きだと言って楽しみにしてくれるのは素直に嬉しかった。  静也は少し変わっていて、好きなものに真っ直ぐになりすぎるところがあった。それは秋陽に対しても適応されているらしく、ふとしたときに「俺の小説家」と秋陽を呼ぶのだ。  恥ずかしいけれど、それが不思議なもので、嫌ではない。  恥ずかしいけれど、それが不思議なもので嫌ではない。 「秋陽、進路どうするのかもう決まってるのか?」 「うーん、何個か候補は。 静也と行った大学覚えてるか?」 「覚えてる」 「一応そこが第一志望かな、今のところだけど」  六限目の授業は進路についてのことと、修学旅行についての話し合いだった。今年は長崎近辺に行くらしい。  班は男女三対三であれば自由らしく、秋陽と静也は当然のようにペアになった。他の班は自由時間にどこに行くかなど話して盛り上がっているが、秋陽の班は女子が中心になって行き先を決めてくれるらしい。要するに、口出しするなということだろう。    

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